2.カエル殺し | ||||||||||||||
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あるとき、晴明は平安京の北西、嵯峨(さが。京都市右京区)の広沢池のほとりにある遍照寺(へんじょうじ)を訪れた。
住職・寛朝(かんちょう。宇多天皇の孫)大僧正に用事があったのである。
「大僧正はいずこですか?」
受付の若い僧が申し訳なさそうに言った。
「あいにく留守ですが」
「そうですか。ではまた」
「あ、よろしければ御名を。伝えておきます」
「いや、名乗るほどの者でも〜」
立ち去ろうとした晴明を見て、ほかの僧が気づいた。
「あ、安倍晴明!」
「何! あの高名の陰陽師か!」
僧たちは晴明を追った。
「ちょっと! ちょっとちょっと!!」
追いついて取り囲んで聞いた。
「少しお尋ねしたいことがありますが、よろしいでしょうか?」
「なんですか?」
「晴明様は式神(しきがみ・しきじん。識神)を使われるそうですが……」
式神とは、陰陽師が使役する鬼神のことである。彼らは虫や無生物をさも生きているかのように操ることができるという。
「使いますよっ」
晴明は当然のように答えた。
僧たちははしゃいだ。
「ホントですか!」
「式神、出してみてくださいよ〜」
「見たいな〜」
「それで、たとえば人を簡単に殺すこともできるんですか?」
質問責めする僧たちに晴明は苦笑した。
「あなたたち、僧のくせに物騒ですね。簡単には殺せませんよ。でも、少し力を込めれば可能です」
僧たちはますますはしゃいだ。
「可能だってよ!」
「すげーや!」
「そんなの、無敵じゃーん!」
そのとき、池のほとりでカエルたちが鳴き始めた。
カエルたちはそれはそれは楽しそうにケロロケロロと鳴いていた。
僧の一人がそれを見て、晴明に言った。
「晴明様。あそこのカエルを一匹、式神で殺してみてくださいよ。できますか?」
「残酷な方ですね。私は殺すことはできますが、生き返らせることはできないので罪作りになってしまうんですよ。でも、詐欺師(さぎし)だと思われるのもしゃくなので、一度だけやって見せましょう」
晴明は草の葉を一枚取ると、なにやらムニャムニャと呪文を唱えた。
そしてそれをカエル目掛けて投げつけたのである。
ふわさっ
草の葉はカエルの上に覆いかぶさった。
「けろろ?」
カエルは首を傾げたが、次の瞬間、爆発した。
「ひでぶ!」
ボーン!
ぺちゃんこになったカエルの死体を見て、僧たちは真っ青になった。
「マ、マジで死んじまった……」
「踏んだりたたいたりしたわけでもないのに……」
「こっわー!」