1.守り通します! | ||||||||||||||
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得宗北条高時様は暗愚ではない。
高時様が無能だったから幕府が滅びたなんてとんでもない。
幕府滅亡の原因は、元寇にあった。
いや、すでに開幕当初からおかしかった。
それら原因を無視し、すべての責任を高時様にかぶせるのはむごい。
高時様が闘犬や田楽に凝っていたのは事実だ。
しかしこれは後世でいうと、スポーツや趣味に熱を入れるようなものだろう。
私の名は五大院宗繁(ごだいいんむねしげ)。
得宗家の御内人だ。
高時様の部下のため、ひいき目に主君を見ているのは否めない。
それでも、私にとっては悪くない上司だった。
私の妹が高時様の側室になったため、親族として色々とおいしい思いをさせてもらった。
甥(おい)っ子もできた。
高時様の御長男・太郎邦時(くにとき)様だ。
「おいちゃん、おいちゃん」
よく遊んであげたためか、太郎様は私になついていた。
高時様はちょっと嫉妬していた。
「太郎は『おいちゃん』ばっかじゃないか。よし、余に万が一のことがあったら、太郎は『おいちゃん』に預けよう」
その時は冗談かと思って笑っていた。
しかし「万が一のこと」は、凶賊(きょうぞく)新田義貞による鎌倉侵攻で現実になってしまった。
鎌倉市街戦の最中、私は東勝寺で高時様に太郎様を託された。
「もはや鎌倉は終わりだ。余もここで自刃する。しかしまだ太郎は九歳だ。一緒に冥途に連れて行くのは忍びない。よいか、どんな手を使ってでも太郎をかくまい続けてほしい。そしていつか得宗家を再興するために、太郎を担いで決起してくれたらうれしいぞ」
「ははーっ」
私は爆涙した。
止まらない涙をふきふき、太郎様を連れて東勝寺を後にした。
私は太郎様を私の中間に変装させて新田軍に投降した。
逃亡しているより、投降してしまったほうが太郎様をかくまいやすいと思ったのだ。
私のもくろみは正解だった。
三日後、高時様らは東勝寺で集団自殺した。
鎌倉は新田軍に完全制圧されてしまった。