4.行き倒れます! | ||||||||||||||
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鎌倉へ帰った翌日、北条太郎邦時様は処刑された。
享年九。
私は褒美をもらったが、うれしいはずはなかった。
船田義昌の家来になったが、家中の目はみな冷たかった。
(幼い主君を売り飛ばした不忠者めが!)
(あんなにひどいことをした極悪人のくせに、よくもまあ平然と生きていられるもんだ)
(人としての心があるのなら、追い腹でも切りやがれ!)
みんなみんな心の中で非難しまくっているかのようだった。
ある日、義昌は私を呼んだ。
「おぬしの存在が家中を乱している」
「うすうす存じております」
「御大将(新田義貞)に相談したところ、おぬしを処刑せよと言われた」
「え!」
「不忠者を生かしておいたところで、わざわいにはなってもためにはならないと言われた」
「……」
「無論、わしはおぬしと約束したため、処刑したくはない」
「……」
「ここから去れ」
「……」
「おぬしの身のためだ」
「……」
私は船田家を追われた。
親族を頼ろうとしたが、死んだ者も多く、生きている者も相手してくれなかった。
「不忠者はうちには来るな!迷惑だ!」
「人でなしに食わせる飯はねえ!」
「シッシッ!」
私は物乞いになった。
日に日に衰弱していった。
ある日、路頭で倒れた。
誰も起こしてくれなかった。
「ああ〜」
目の前に人の足が見えたのでつかんだ。
それは子供の足だった。
ちょうど太郎様ぐらいの年の男の子だった。
「なにか、たべものぉ〜」
「やだね! 汚い!」
ドカッ!
子供は蹴った。
「死にぞこないが!」
「私には、まだ、やることがあるんだぁ〜。ある人たちの、カタキをとらなければならないんだぁ〜」
「そんなふうに寝てるだけで何ができるんだよう!くたばれ乞食!」
ドカッ!
私は手を離した。
解放された子供は逃げ走っていった。
私はまるで太郎様に捨てられたような気がした。
「おうお〜」
私は悔しすぎた。
(私は常に、その時々の最善を尽くそうとしてきたのにぃ〜)
私は号泣した。
涙は枯れ、干からびたみたいになっていった。
数日後、私の死体は処分された。
[2017年9月末日執筆]
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