2.居直りやがったアイツ

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日大悪質タックル問題
1.アイツの弱点見つけた
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3.とっておきのみなさま

 大和守・藤原輔公は、大蔵大夫・藤原清廉を大和国庁に呼びつけた。
 平安時代中期以降、大和国庁のある大和国府は、現在の大和郡山市にあったという。
「話って何でしょうか?」
 清廉が警戒してドドーンと侍たちを率いてやって来た。
 輔公もババーンと侍たちを引き連れて出迎えた。
「納税の話だ」
「そうかと思いました」
「このままでは物騒だ。お互いの侍たちは遠ざけてサシで話し合おうではないか」
「いいですよ」
 輔公が離れの小屋を指して提案した。
「あの中で一対一で話そう」
 小屋は侍の宿直室にしていた、四方を壁で囲んだ壺屋
(つぼや)であった。
「いいですよ。何度話しても結果は同じでしょうけど」
 清廉に納税する気はさらさらなかった。

 二人は壺屋に入った。
 輔公が切り出した。
「もうすぐわしは京へ帰らなければならない」
大和守の任期が切れるんですね?早いものです。どうも御苦労様でした」
「だからその前に、どうしても大夫から税を徴収しておかなければならない」
「はい?」
「私が大和に来てから、大夫は一度も納税してくれなかった」
大和は毎年不作でしたからね。税を納めるほどの収穫はありませんでした」
「その割に大夫は裕福な生活をしておられる」
「私の荘園は大和だけではありません。山城伊賀にもあるんです。大和は不作続きですが、山城伊賀は豊作続きなんです。だから私はその分で裕福な生活ができるんです」
「なるほど」
「それとも守は、山城伊賀の余裕分で納税しろっていうんですか?それはできないですよね?違反ですよね?」
「まあな」
「じゃあ仕方ないじゃないですか」
「でも、おかしいと思うのだ」
「何がですか?」
「どうして毎年大和だけ不作で、山城伊賀は豊作なのだ?」
「そんなこと、私に聞かれても分かりませんよ。米に聞いてください」
「まさか大和で収穫した米を、山城伊賀に運ばせているわけじゃないよね?」
「そんな面倒なことしませんよ」
「だろうね。念のため、山城国庁に問い合わせてみたら、そのような事実は確認できなかった」
「そりゃそうでしょ」
「その代わり、別の事実が判明した」
「別の事実?」
「ああ。大夫が山城でも滞納していることがわかった」
「はあ」
「滞納の言い訳として、『山城は不作続きですけど、大和伊賀は豊作なんですよ〜』と言っていることがわかった」
「……」
「きっと伊賀でもこう言っているんだろ?『伊賀は不作続きですけど、大和山城は豊作なんですよ〜』って」
「……」
 バン!
 輔公は机をたたいてキレた。
「ふざけるんじゃねえ!納税できる余裕がありまくっているくせに、同じごまかして大和山城伊賀それぞれで滞納してるんだろっ!」
「……」
山城伊賀はわしのあずかり知らぬところだ。うちの分だけでも納税してもらおう」
「わかりました。では、今月中に――」
「先延ばしはもう通用しない。今日中に滞納分五百七十石余りを完納してもらおう」
「今日中って、そんな」
「硯
(すずり)と紙を用意する。今すぐここで大夫の荘園からわしの館に米を納めるよう下文(くだしぶみ。通達書)を書け」
 清廉はフッと笑った。
 居直って反転攻勢に出た。
「いやと言ったら?」
「何だと?」
「いやと言ったらどうするつもりだ?」
「どうするって……」
「お上に訴えるつもりか?それともここで合戦するつもりか?法にせよ力にせよ、守に勝ち目はないぞっ!」
「う……」
「もう一ついいことを教えてやろう。私はお上と仲良しなだけじゃない。天下の東大寺ともダチなのだ。その両手に権力な私と、いざこざを起こそうとでもいうのか?上等じゃねーか!」
「……」
「カネ集めが下手な守に教えてやろう!大金持ちになりたかったら税なんか納めないことだ!お上を見ろ!東大寺を見ろ!税なんて全然納めたことねーぞ!世の中の金持ちはみんなつながっているんだ!お互いになあなあで税を納めなくてもいい仕組みができているんだ!何が納税だ!納税なんてクソだ!納税なんて私ら金持ちがやることじゃない!ビンボーな連中が汗水垂らしてすることなんだよー!
(※個人の見解です)

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