3.グワー! | ||||||||||||||
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「ああ、気持ち悪かった……」
おれは家に帰った。
妻にさっきのことを話そうとすると、勝手に話題を替えられた。
「ふーん、そんなことよりねー」
妻の機嫌はなぜか直っていた。
妻は笑顔で話し始めた。
「隣のダンナさんがね、私のこと『いい女だねー』だって!」
おれは余計にムカついてきた。
「お世辞に決まってるだろ! 自分の顔をよーく見てみろー!」
「わー、やいてる〜、やいてる〜」
「やくかっ!」
妻はやさしくなった。すりすりすり寄ってきた。
「機嫌直して〜。ほら、あなたの大好きなもの、作ったからさ〜」
「大好きなものって……」
「さっき言ってたじゃーん」
「ま、まさか……!?」
妻がそれを持ってきた。
ふたを開けたそれは、まさしくソレだった。
「はい、鮎鮨!」
「ウプッ!」
おれは口を押さえた。
たまらず嘔吐(おうと)した。
ダーッと、それはそれにカレールーのようにゆっくりと覆いかぶさった。
妻は絶句した。顔がゆがんできた。泣きそうになった。
「ひどい……。せっかく作ったのに、なんてことするの……」
でも、すぐに元気を取り戻すと、グチョグチョと手でかき混ぜて勧めた。
「でも、こうするとぜんぜん区別つかないよねー。はい、どーぞ! たくさん食べてっ!」
「食べるかーーーーーーーーーーっっっ!!」
[2006年6月末日執筆]
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※ この物語は『今昔物語集』にある話を筆者が多少アレンジしたものです。