1.【問題】 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2015>1.九人の子の秘密【問題】
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あぶねえ!
危ないところだった!
危うくバレちまうとこだった!
「ぼくのナマエはクロウだよ」
宿のガキンチョにそう言われて、思わず、
「偶然だな。ここにいる俺の主人の名前も九郎だ」
って、言っちまうところだった!
言っちまったら、気づかれてしまっただろう。
この子に分かるはずはないが、この子の両親の宿の主人・女将夫妻が気づいただろう。
「え!?九郎って、ま、まさか、源九郎(みなもとのくろう)?」
「あの全国指名手配犯の源義経!?」
そうなのだ。
俺の主人の源義経様は、鎌倉の頼朝兄貴に追われている身なのだ。
「オジチャンのナマエはなあに?」
ガキンチョに聞かれた俺は、思わず、
「ベン――」
と、答えかけてしまった。
あぶねえ!
弁慶(べんけい)なんて言っちまったら、主人の名前を明かすことに等しい!
俺が黙ると、ガキンチョは不思議がった。
「ベン?ベンだけ?ベンのつぎはなあに?」
「ベン――」
俺は続けられなかった。
「なに〜?なに〜?」
ガキンチョは容赦なかった。
でも、気を遣ってくれた。
「いえないってことは、はずかしいナマエなの〜?」
俺はとっさにウソを思いついた。
「そうだよ!恥ずかしい名前なんだよ。俺の名は弁乗(べんじょう)。そのためみんなから便所ってからかわれている」
「きゃーっ、きゃっきゃ!」
ガキンチョは猿みたいに笑った。
「このオジチャンのナマエ、ベンジョだってよ!ベンジョだベンジョ!きたねえぞ、コイツ!」
古今東西、汚物ネタは子供のツボだ。
「やめなさい!人様の名前で笑うのは!ブフッ!」
そうガキンチョをしかった宿の女将も我慢しきれずにドッハーッと爆笑していた。
ウケているということは、俺達の正体はバレていないということだ。
「そーなんですよ、俺ってベンジョなんですよ〜」
義経様がさり気なく分け入ってきた。
「ところで――」
ガキンチョの名前に話題を戻して女将に聞いた。
「お子様の名前が九郎ってことは、九番目の子ですか?」
女将は答えた。
「ええ、それが私たちの一番下の子です」
「っていうことは、あなた方御夫婦のお子様は全部で九人?」
「そうですよ。主人の子が六人。私の子が六人。合わせて九人です」
「はあ?」
義経様は耳を疑って聞き直した。
「それって、合ってます?」
「ええ、合ってますよ。主人の子が六人。私の子が六人。合わせて九人です」
二度聞いて頭の悪い俺でも変なところに気がつけた。
「あれ?六人ずつってことは、六足す六で合わせて十二人では?」
「いいえ、九人ですよ」
女将は平然としていたが、俺も義経様も納得いかなかった。
「おかしいじゃないですか〜」
女将は聞いた。
「あなた方、明日までお泊りなんでしょ?」
「ええ」
「じゃあ、今日のところはこれでおしまい。明日までにおかしくない理由を考えてみてください」
「宿題かよ〜」