2.必勝布石

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無礼な人々
1.宣戦布告
2.必勝布石
3.いざ対決

 

 下毛野公忠の勤める近衛府(このえふ。皇宮警察)の役所は大内裏(だいだいり。皇居+官庁街)内にあるが、彼は関白藤原頼通の随身でもあるので、高陽院(かやのいん。頼通邸)内の随身所(ずいじんどころ。護衛官詰所)にも詰めていた。

● 近衛府(左近衛府+右近衛府)の構成
役 職 よみかた 定員 備 考
大 将 たいしょう 2 左右各一人。近衛府の長官。
天皇筆頭護衛官。従三位相当。
中 将 ちゅうじょう 2→4 近衛府次官。従四位下相当。
少 将 しょうしょう 2→4 近衛府次官。正五位下相当。
将 監 しょうげん 4→約10 近衛府判官。従六位上相当。
将 曹 しょうそう 8→約20 近衛府主典。正七位下相当。
舞人・楽人・近衛舎人から昇格。
府 生 ふしょう 12 指揮官。近衛舎人から昇格。
番 長 ばんちょう ? 指揮官。近衛舎人から昇格。
近衛舎人 このえのとねり 400→600 警備員。単に近衛とも。
吉 上 きちじょう ? 警備員。

 そこへ蔵人頭兼右大弁(うだいべん。右弁官局長官)藤原重尹(しげただ)がやって来た(「2005年7月号 詐欺味」参照)
「公忠。種合の支度はできているか?」
「あ、大将。準備万端です」
 重尹は左方の大将である。
 対する右方の大将は、蔵人頭兼左近衛中将
(さこのえちゅうじょう。左近衛府次官。左中将)源顕基(みなもとのあきもと)

 重尹は腰を下ろした。
「今日は種合でのお前の相手が決まったことを知らせにきた。名もなき貧相な老僧だそうな」
「そうですか」
 公忠は自分が右方に推薦してきたので知っていたが、初耳のふりをした。
 重尹は出された白湯
(さゆ)をすすって笑った。
「ま、誰が相手であろうが、近衛府最強のお前に勝てる者などいるはずがない。誰もいなかったからこそ、右方は今の今まで人選に困っていたのだ。――しかしまあ、ようやく出てきた相手が名もなき老僧とは、右方もお前との一番は捨て試合と見ているな」
「いえ。私は相手が誰であろうが、手加減はいたしません。相手が弱ければ弱いほど、二度と立ち上がることができないほどに完膚なきまでにたたきのめして見せましょう!」
「おーおー、頼もしい限りだ。がんばれよっ」
「左方に勝利あれ!」

 重尹は帰っていった。
 御簾
(みす)の内から頼通の声がした。
「種合か。楽しみじゃのう」
「ええ。当日は私もいまだかつてないほどのスゴ技をお見せいたしますので、どうぞ御期待ください」
 自信たっぷりの公忠に、頼通が言った。
「ふっふっふ。お前の主人であるわしが出て行くからには、審判団も左方をひいきするしかあるまいて。だが、油断は禁物じゃ。よいな、勝つためじゃ。カネを湯水のように使うがよい」
「ははー、ありがたき幸せー」

 公忠は頼通にもらったカネで見事な駿馬(しゅんめ)を買った。豪華な鞍(くら)も買い、装束も新調、この上ない名刀や強弓も手に入れた。もちろん、実技の練習も怠らなかった。
「完璧
(かんぺき)だ!」
 公忠は満足した。武者震いした。天に向かってほえた。
「勝った! これでオレは勝った! 最高の品々に最強の技能! 鬼に金棒とはこのことよ!―― ああ、待ち遠しい! 貧相な老僧よ! 早く貴様がミジメに泣き崩れるアリサマが見たいわーっ!!」

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