2.闇討!平 忠盛!! | ||||||||||||||
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●鳥羽上皇政権閣僚(1132.11/) |
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官 職 | 官 位 | 氏 名 | 備考・兼職 |
院 政 | 鳥羽上皇 | ||
天 皇 | 崇徳天皇 | ||
内 覧 | 従一位 | 藤原忠実 | 前関白。 |
関 白 | 従一位 | 藤原忠通 | 忠実の子。 |
左大臣 | 従一位 | 藤原家忠 | 左近衛大将。 |
右大臣 | 従一位 | 源 有仁 | 後三条源氏。 |
内大臣 | 正二位 | 藤原宗忠 | |
大納言 | 正二位 | 源 能俊 | 醍醐源氏。 |
権大納言 | 正二位 | 藤原忠教 | 民部卿。 |
権大納言 | 従二位 | 源 師頼 | 村上源氏。 |
権大納言 | 正三位 | 藤原実行 | |
中納言 | 正三位 | 源 顕雅 | 村上源氏。 |
中納言 | 正三位 | 源 雅定 | 村上源氏。 |
権中納言 | 正三位 | 藤原実能 | 右衛門督。 |
権中納言 | 正三位 | 藤原長実 | |
権中納言 | 正三位 | 藤原頼長 | 忠通の弟。 |
権中納言 | 従三位 | 藤原宗輔 | 右兵衛督。 |
権中納言 | 従三位 | 源 師時 | 村上源氏。 |
権中納言 | 従三位 | 藤原忠宗 | 中宮権大夫。 |
権中納言 | 従三位 | 源 雅兼 | 村上源氏。 |
参 議 | 正四位下 | 藤原宗能 | 左近衛中将。 |
参 議 | 正四位下 | 藤原顕頼 | 院近臣。 |
参 議 | 正四位下 | 藤原実光 | 左大弁。 |
参 議 | 正四位下 | 藤原成通 | |
前参議 | 従三位 | 藤原伊通 | |
非参議 | 従三位 | 源 顕仲 | 村上源氏。 |
非参議 | 従三位 | 藤原経忠 | 左京大夫。 |
非参議 | 従三位 | 大中臣公長 | 神祗大副。 |
非参議 | 従三位 | 藤原家保 | 院近臣。 |
長承元年(1132)十一月二十三日夜、豊明節会の宴が内裏紫宸殿で開かれた。
政界最長老(七十一歳)の内大臣・藤原宗忠(むねただ。「葉室氏略系図」参照)が、遅れて参上した平忠盛を呼び寄せて聞いた。
「新入りよ。『闕巡(けつずん)』というものを知っておるか?」
宗忠は忠実の盟友である。朝廷の儀式に精通しており、日記『中右記(ちゅうゆうき)』の作者として知られている。
忠盛は小さくなった。
「ケツズンですか。――申し訳ありません。存じませんが」
「宴会で遅れてやって来た者は、これまで回った杯の数だけ一度に飲まなければならないというしきたりじゃ。すでに我々は七、八杯の杯を重ねておる。のう、みなの者」
ウソであった。
しかし、みんなグルなので、争ったようにうなずいた。
「そうじゃそうじゃ」
「いっぱい飲んだわい」
「だから忠盛殿には八杯分、いっぺんに飲んでもらわないとな」
「さあさあ、舞姫たちよ。備前守に酒を持て」
「はーい、ただ今〜」
忠盛は舞姫たちに取り囲まれ、いっぺんに八杯の酒を飲まされた。
「うえっぷ!」
「いい飲みっぷりだ。遠慮せずとも、まだまだあるぞ」
「いえいえ、八杯はいただきましたので、少々、風に当たって――」
忠盛は一座から離れ、隅っこで外を向いて座り込んだ。
忠実はその様子を見て喜んだ。
(フフフ、酔ったぞ酔ったぞ。惨劇はもうすぐだ)
院近臣で参議の藤原顕頼(あきより。葉室顕頼。「葉室家略系図」参照)が忠盛に声をかけた。
「酔われましたか?」
「あ、はい。だが、腹がタップンタップンいっている割には、それほどでもありません。都の酒は弱いのですかね?」
顕頼が耳元で、小声で言った。
「それはそうでしょう。私が水で薄めておきましたから」
ちなみに顕頼の父は藤原顕隆(あきたか。葉室顕隆)。白河院政下で「夜の関白」と呼ばれた権力者で、忠実の政敵であった。
忠盛が察して笑った。
「面目ごさらぬ」
「いえいえ。お気をつけを」
平 忠盛 PROFILE | |
【生没年】 | 1096-1153 |
【出 身】 | 伊勢国安濃郡産品(三重県津市) |
【本 拠】 | 伊勢国→京都(京都府京都市) |
【職 業】 | 武将・歌人 |
【役 職】 | 検非違使→伯耆守→越前守→院別当・備前守 →中務大輔・美作守→尾張守→播磨守 →内蔵頭→刑部卿など |
【位 階】 | 正四位上 |
【 父 】 | 平正盛(正衡の子) |
【 妻 】 | 藤原宗子(池禅尼)・祗園女御の妹 ・藤原家隆女・源信雅女・藤原為忠女ら |
【 子 】 | 平清盛・家盛・経盛・教盛・頼盛・忠度 ・忠重・女(藤原顕時室)・女(藤原隆教室)ら |
【兄 弟】 | 平忠正ら |
【主 君】 | 白河法皇・鳥羽上皇・崇徳上皇・近衛天皇 |
【部 下】 | 平家貞・平維綱ら |
【著 作】 | 『平忠盛集』 |
顕頼はほどなくして一座のほうに戻っていった。
しかし忠盛はそのままそこにいた。篝火がそばにあり、精悍(せいかん)なその顔を照らしていた。
忠実は念じた。
(火のそばではなく、早く暗いところに行ってくれ。そうしなければ闇討ちにならぬ)
が、忠盛は火のそばから動こうとはしなかった。
(やむをえまい)
しびれを切らした忠実は、舞人に紛れ込ませて刺客たちに目配せし、笛を吹き始めた。
ぴ〜、ひゃらひゃらら〜。
それが決めておいた闇討ちの合図であった。ちなみに忠実は笛の名手でもあった。
刺客たちは舞っているふりをしながら、ジリジリと忠盛との間を詰めていった。
が、刺客たちは忠盛の周りをぐるぐる回っているだけで、襲いかかろうとはしなかった。
忠実はイライラした。
(何をしている!)
刺客の一人が忠実に告げにきた。
「変です」
「何がだ?」
「ヤツの刀です。飾太刀ではありません」
「飾太刀ではない?どういうことだ?」
「おそらく、真剣かと」
「シンケンッ!」
忠実は大きな声を出しかけて、危うく押さえた。
「ええ、時折抜いて、びんに当てて切れ味を確かめるようなそぶりをしております。刀身が火を受けて、氷のような冴(さ)えた光を放っております」
「ぬぬぬ……」
真剣を持っている者を襲えば、こちらも血を見ることになる。だいたい忠盛が真剣を持ち込んだということは、暗殺計画に気づいているということである。
「おそらく、顕頼あたりがしゃべったのであろう。いずれにせよ、相手に気づかれていては闇討ちにはならぬ」
「中止ですか?」
「ああ」
「悔しいです!」
「なーに。こういうこともあろうかと、次の手はすでに考えてある。いずれにせよヤツは終わりだ。ヤツは墓穴を掘ったのだ」
そこへ蔵人頭源師俊(もろとし。「村上源氏略系図」参照)がやって来て告げた。
「殿下。怪しい侵入者を見つけました。忠盛の郎党で、平家貞(いえさだ。(「桓武平氏略系図」参照)と名乗っておりますが、どうしましょうか?」
「捨て置け。それもまたヤツを追い詰める材料の一つになろう」