3.解決!鳥羽上皇!!

ホーム>バックナンバー2009>3.解決!鳥羽上皇!!

たいしたことではない
1.陰謀!藤原忠実!!
2.闇討!平 忠盛!!
3.解決!鳥羽上皇!!

 宴後、藤原忠実は殿上人一同を引き連れて鳥羽上皇に申し上げた。
備前平忠盛が真剣を持って宴に乱入しました。また、平家貞なる身分の低い凶器を持った郎党を無断で宮中に潜ませてもいました。おそらく、殿上人の誰かを殺そうとたくらんでいたのでしょう。あるいは標的は院であったやもしれません」
「なんと!」
 仰天する鳥羽上皇に、忠実は迫った。
「このような無礼はいまだかつて聞いたことはありません。いいえ、これは無礼ではなく、謀反そのものです!即座に忠盛を解任し、流刑にすべきかと!」
 殿上人たちも口々に言った。
「恐ろしや!恐ろしや!」
「やはり物騒な武士に昇殿を許すべきではなかったのでは?」
「どうか忠盛を辞めさせてください!」
「マロたちはこのような怖い怖い人と一緒にお仕事はできまへんて!」

 鳥羽上皇忠盛を呼びつけた。
「かくかくしかじかだが、どういうことか?」
 忠盛は弁明した。
「まず、郎党の件は身に覚えがございません。ただ最近、拙者を闇討ちにしようとする者がいるといううわさがありますゆえ、長年の郎党ゆえ、心配のあまりついつい宮中まで潜入してしまったのでございましょう。主人として非礼はお詫びいたします。ただし、拙者は存じませんことゆえ、事の詳細は直接本人にお聞きください。――次に刀の件ですが、あれは真剣ではなく、木刀でございます」
「木刀だと――」
 忠実は声を荒らげた。
「木刀であろうはずがない!刀身が光っておったというぞっ!木刀が光るわけがなかろうがっ!」
 忠盛は平然と返した。
「光りましょう。刀身に銀箔
(ぎんぱく)を貼(は)っておきましたから」
 忠実は激怒した。
「見え透いた言い訳をするな!どこの誰がそのようなことをするものか!この期に及んで見苦しいぞっ!武士にあるまじき態度である!貴様も真の武士と申すのであれば、真の武士らしく責任を取ってみよっ!」
 忠盛は退かなかった。
武士なるものはいつ何時も用心しているものでございまする。お疑いであれば、主殿司
(とのもりのつかさ・とのもづかさ。殿司。「古代官制」参照)の女官にお尋ねくださいませ。帰り際にその刀を他の殿上人が見ている前で預けておきましたから」

 鳥羽上皇は主殿司の女官にその刀を持ってこさせた。
 忠実が受け取ろうとしたのを、
「朕
(ちん)が見よう」
 と、鳥羽上皇は自らそれを抜いて刀身を確かめた。
 はたして、忠盛の言うとおりであった。
 鳥羽上皇は感心した。
「見事だ。闇討ちをハッタリで防いだばかりか、後々に訴えられることまで想定して木刀を用意していた用意周到さはアッパレとしか言いようがない!そのような立派な主人であるからこそ、あえて規則を破ってまで守ろうとする郎党もいるのであろう!これらのことは感心することはあっても、決して非難されることではない!さすがだ!武士たるものは、かくあるべきなり!平忠盛こそ、真の武士である!」
「ははー!まことにまことにありがたきお言葉!」
「ぬぬぬ……」

 こうして、忠盛の罪は不問に付された。
 忠実はくやしかったが、どうすることもできなかった。
 彼は威風堂々と去っていく忠盛をにらみつけた。
(わしは忘れんぞっ。この屈辱は生涯忘れんぞっ!覚えているがいいっ!わしは必ず貴様を破滅させてみせるっっっ!)
 藤原忠実vs平忠盛――。
 両者の確執は、それぞれの子の代で保元の乱として表面化するのであった。


※ 殿上闇討事件の首謀者について、出典の『平家物語』では「雲の上人」とぼかしてありますが、筆者は藤原忠実と推測しました。

歴史チップス ホームページ

inserted by FC2 system