1.ハ ト | ||||||||||||||
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浮田幸吉 PROFILE | |
【生没年】 | 1757-1847? |
【別 名】 | 桜屋幸吉・備前屋幸吉・備幸斎(備考斎) |
【出 身】 | 備前国児島郡八浜(岡山県玉野市) |
【本 拠】 | 八浜→備前国岡山(岡山県岡山市) →駿河国府中(静岡県静岡市) →遠江国見附(静岡県磐田市) |
【職 業】 | 表具師・鳥人・商人・時計屋・入れ歯職人 |
【 父 】 | 浮田(桜屋)瀬兵衛or清兵衛 |
【 母 】 | 由羅 |
【兄 弟】 | 女・瀬平・弥作 |
【養 子】 | 幸助 |
【友 人】 | 尾崎多門ら |
【主 君】 | 池田治政ら |
【墓 地】 | 大見寺(磐田市) |
ぽっぽぽっぽぽっぽー、ぽっぽぽっぽぽー。
ハトの楽園であった。
ぽっぽぽっぽぽっぽー、ぽっぽぽっぽぽー。
弥作(やさく。「浮田氏系図」参照)が備前岡山(おかやま。岡山市北区)城下にある蓮昌寺でハトにエサをあげているのである。
ぽっぽぽっぽぽっぽー、ぽっぽぽっぽぽー。
大勢のハトが、その周りで至福の時間を謳歌(おうか)していた。
が、のどかな輪の中に、ブリブリ怒っている青年がいた。
「いけ好かねえ女だ!」
弥作の兄・幸吉(こうきち)であった。
「おらは腕利きの表具師だ。おらの腕は誰もが認めてくれている。それなのに、どうしてあのいけ好かねえ女だけは分かってくれないんだ!」
弥作は笑った。
「理由は分かっているよ。あの女はチンピラ野郎に首ったけだからさ」
「おもしろくねえ!あんなチンピラ野郎のどこがいいんだ!あんないい加減なヤツと結婚したところで幸せなんかになれない!働き者で将来のあるおらに嫁いでこそ、大輪の花が咲くってもんだ!」
「ふーん、そんなに好きなの?」
「ああ、この恋は本物だ!」
「そんならチンピラ野郎から奪ってみたらどうだい?」
「ああ、そのつもりだ!」
「え?本気?何かいい作戦でもあるの?」
「彼女の好みは聞いている。おらがその通りの男に変身すれば、彼女はおらの女になってくれる」
「彼女の好みって何?」
「天狗(てんぐ。「天狗味」参照)だよ」
「テング?」
「ああ。おらが『君はどんな男が好みだ?』って聞いたら、彼女は近くにあった天狗のお面の鼻をなでて『こんな男、うふっ』って笑ったんだ」
「……」
「だからおらは天狗になる!天狗のように、空を自由に飛べる男になって見せる!」
「……。兄さん、彼女の好みはそういうことじゃないと思うよ」
「どういうことだ?」
「だって、そのその、だいたい空を飛べる男なんて現実的じゃないじゃないか」
「何が現実的じゃないだ!今、お前の周りにいるハトだって、みんなみんな空を飛べるじゃないか!」
「ハトと人間は違うよ。ハトには羽根がある」
「だから羽根を作るんだよ!人間だって羽根を付ければ、ハトのように飛べるようになるさ!人間にはハトには無い知恵がある!おらには物作りの腕がある!見てろよチンピラ野郎!今にヤツはほえ面をかき、シッポを巻いて退散することになるのだワハハハハ!」
ぱたぱたぱたぱたぱたたた!
ハトたちが一斉に飛び去った。
チャッ!
幸吉はすばやく懐からハサミを取り出すと、
ヒュン!
その中の一羽めがけて投げつけた。
ズボ!
ハトは串(くし)刺しになった。
「うぽー!」
ぼて!
そして、落ちて息絶えた。
弥作がハトに駆け寄って怒った。
「何てことするんだ!かわいそうにっ」
幸吉がハトの死体を拾い上げた。
「解剖してハトが飛べる仕組みを調べる。人間に合った羽根の比率も計算する。おらの恋は必ず成就する。この命を決して無駄にはしない」