1. 松江

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小泉八雲PROFILE
【生没年】 1850-1904
【別 名】 ラフカディオ=ハーン(ヘルン)
【出 身】 英領ギリシャ(ギリシャ)
【本 拠】 ギリシャ→アイルランド→フランス
→イギリス→アメリカ→材木町(島根県松江市)
→末次本町(松江市)→北堀町(松江市)
→熊本市→神戸市→市谷富久町(東京都新宿区)
→西大久保(新宿区)
【職 業】 小説家・日本学者
【役 職】 タイムズデモクラット文学部主筆
→ハーパー社特派員
→松江中学英語教師
→第五高等中学校英語教師
→神戸クロニクル記者
→帝国大学文科大学英文学講師
→早稲田大学英文学講師
【 父 】 チャールズ=ハーン(アイルランド人)
【 母 】 ローザ=テッシマ(ギリシャ人)
【 妻 】 マティ=フォリー・小泉節子(セツ)
【 子 】 小泉一雄・巌・清・寿々子
【弟 子】 上田敏・厨川白村・田部隆次ら
【友 人】 服部一三・西田千太郎ら
【作 品】 『怪談』『心』『知られざる日本の面影』『東の国から』
『神国日本』『骨董』『日本雑録』『詩論』『詩人論』
『英文学史』など
【墓 地】 雑司ヶ谷霊園(東京都豊島区)

 心に傷を負った異邦人がいた。
 美しい松江
(島根県松江市)の風景が傷を癒してくれた。
 明治二十三年(1890)の冬の寒さが、南国ギリシャ生まれ英国育ちのハーンにはきつすぎた。
 年が改まると、風邪
(かぜ)をひいて寝込んでしまった。
「それはいけませんな」
 ハーンが英語教師として勤務していた松江中学校
(後の島根県立松江北高等学校)教頭・西田千太郎(にしだせんたろう)が世話する女性を紹介してくれた。
「はじめまして。セツと申します」
 武家の娘で、小泉節子
(こいずみせつこ)といった。
 ほどなくして、ハーンは回復した。
 ハーンは節子に礼を言った。
「君のおかげ。私、こんなに元気」
「それはようございました」
「君のおかげ。私、こんなに元気」
「はい?」
 二人は結ばれた。

 ハーンが材木町(松江市)で下宿していた宿の娘が目を患っていた。
「あなた、医者、行かせる」
 ハーンは宿の主人に通院を勧めたが、
「そのうちに治るでしょう」
 と、聞かなかったため、
「あなた、親失格!」
 激怒して自分が代わりに治療費を出して全快させてやった。
 小さい頃にブランコ遊びでケガをして左目を失明していたハーンは、宿の主人の態度が許せなかったのである。
 その後、その下宿をすぐに引き払って末次本町
(松江市)へ引っ越した。


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現在の北堀町(松江市北堀町)周辺

 ある日の夕方、節子は宍道湖(しんじこ。松江市ほか)のほとりで四、五人のいたずらっ子が子猫を水に沈めて遊んでいるのを見つけた。
「やーい!やーい!」
「みゃん〜みゃん〜」
「そんなことをしてはいけません!」
 節子は子猫を助けると、ハーンの家へ連れていった。
「何それ?」
 節子にいきさつを聞かされたハーンは、
「おお。子猫、かわいそう。子供、むごい」
 と、びしょびしょの子猫をじかに抱いて懐で温めたという。
 節子はキュンとなった。
 彼女は子猫と女中を連れてハーンと一緒に暮らすようになった。
 北堀町
(松江市)の士族屋敷に引っ越したというから、ハーンが小泉家へ婿入りしたことになる。

 北堀町の屋敷は宍道湖(しんじこ)から離れていたが、松江城の天守閣が見えた。
「いいねー」
 ハーンは浴衣
(ゆかた)を着て下駄(げた)をはいて、城の周囲をよく散歩していた。
 昼間飛んでくるヤマバトや、夕方出てくるガマガエルが気に入った。
「あ、ハトちゃん!あ、ガマちゃんまで!」
 ヤマバトが鳴くと喜び、
「てて、ぽっぽ〜。かか、ぽっぽ〜」
 と、鳴きまねをしていた。
 また、蓮池
(はすいけ)という池があり、ヘビもよく出たという。
「きゃー!ヘビ〜!」
 節子がたたこうとすると、ハーンはこう諭した。
「ヘビ、悪くない。人が悪いこと考えると、ヘビも悪くなる」
 ハーンは自分の御膳
(おぜん)を持ってきて、ヘビにおすそ分けした。
「ガマちゃんを食べないように、私、おかず、あげる」

 ハーンと節子は東郷池(とうごういけ。鳥取県湯梨浜町)に旅行することにした。
 東郷温泉の旅館に一週間ほど滞在するつもりでやって来た。
「お二人様ですか?」
「はい」
「どうぞこちらのお部屋へ」
 近くの部屋で酒を飲んで騒いでいる集団があった。
 ハーンは彼らのバカ騒ぎが我慢できず、節子のそでを引いた。
「家、帰ります」
 節子は驚いた。
「まだ泊まってないのに〜」
「ダメです。地獄です。こんなとこ、一秒でもいられません」
 女将
(おかみ)も車夫も驚いている中、ハーンは節子を引っ張って帰ってしまったという。

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