1.悪 夢 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2021>令和三年12月号(通算242号)英雄味 日本武尊の熊襲征討1.悪夢
|
『お父さん、起きて〜』
景行天皇は反応しなかった。
『朝餉(あさげ)だよ。起きてよ〜』
「もう朝か。もうちょっと寝かせてくれ」
景行天皇は八坂入姫命との未明までのチョメチョメで寝不足だった。
『起きて!起きて!起きて!』
ゆっさ!ゆっさ!
「うるさいなー。朕(ちん)は眠たいのっ!」
『ふーん、起きなくてもいいのかい?』
嫌な予感がした。
(あれ? 朕を起こしているこいつは小碓だよな?)
景行天皇は思い出した。
(起こしても起きなかった兄をぶっ殺しちまった小碓だよな!?)
『起きなかったらどうなるのか、わかっているのかーい?』
(ひゃー! こっ、こっ、殺されるー!)
景行天皇は飛び起きた。
「殺さないでくれぇ〜!!」
景行天皇は小碓命に抱きついた。
が、小碓命だと思っていたのは八坂入姫命だった。
八坂入姫命は笑った。
「殺しやしませんよ〜」
「なんだ八坂か」
「悩殺ならしましたけどぉ〜」
「おかげで寝不足だ」
「嫌な夢でも見たんですか?」
「ああ、小碓の夢だ。危うく殺されるところだった」
八坂入姫命も顔を曇らせて身震いした。
「あたしもあいつが怖い……」
彼女は大碓命がミノ(美濃)で見つけてきた美女の一人・兄比売と同一人物かも知れない。
「あいつは殺人犯なのよ! あんな危険なヤツ、牢屋(ろうや)に閉じ込めるか、うんと遠くへ追っ払ってほしい!」
景行天皇もそう思った。
「そうだな。そうでもしないと、朕も枕を高くして寝られない」