2.追 放 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2021>令和三年12月号(通算242号)英雄味 日本武尊の熊襲征討2.追放
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景行天皇は小碓命を呼びつけた。
「クマソ(熊襲)の梟帥(たける。酋長)が朝廷に背いた」
小碓命は不思議がった。
「前にクマソは平定したはずですが」
「確かにアツカヤという梟帥は成敗した。今度はその甥のトロシカヤという梟帥が背いたのだ」
「ですか」
「トロシカヤは狂暴だ。おまえは負けずに勇猛だ。ヤツを倒せるのはおまえしかいない。トロシカヤを討て!
ヤツを討てば、ソの国(襲の国・曽国。鹿児島県大隅半島)はおまえのものだ」
「行きましょう!」
景行天皇はニンマリとした。
ミノの弟彦公(おとひこのきみ)とイセの石占横立(いしうらのよこたち)とオワリの田子稻置(たごのいなき)と乳近稻置(ちちかのいなき)をお供させた。
助太刀ではなく、監視役であった。
小碓命はイセの神宮(三重県伊勢市)に立ち寄った。
神宮には初代斎宮(さいくう。斎王)として倭姫命(やまとひめのみこと)が仕えていた。
倭姫命は景行天皇の妹で、日本武尊の叔母であった。
「今からクマソのトロシカヤを征討してきます」
「征討? まだ十六歳のあなたがですか? クマソが背いたとも聞いてませんが」
倭姫命は不審がった。機転を利かせて二人きりになった時に自分の衣装を与えた。
「あなたは女装すれば誰も男とは疑いません。逃げる時にお使いなさい」
「逃げる?」
「おそらくクマソは背いていません。兄(景行天皇)と示し合わせているのでしょう」
「何のために?」
「殺人犯のあなたは、ソの国に島流しにされるのでしょう」
「!」
「ソの国に行けば、あなたはトロシカヤの監視下で一生牢屋暮らしです」
「……」
「それが嫌なら、お逃げなさい」
「わかりました。そういうことなら、折を見て逃げましょう」