4.刃 傷 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2021>令和三年12月号(通算242号)英雄味 日本武尊の熊襲征討4.刃傷
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「王子が逃げたぞ!」
「森の方に逃げたそうだ!」
「捜せーっ!」
トロシカヤのもとにも小碓命逃走の知らせはもたらされた。
トロシカヤは騒いでいる人たちを制した。
「慌てるな! 森の出入り口を封鎖しておけば逃げ場はない! 明日、明るくなってからじっくりと山狩りすればいいのだ!今夜は祝宴を続けろ!」
そこへ部下の一人が見知らぬ超美少女を連れてきて告げた。
「梟帥。かわいい娘を捕まえてきました。どうぞどうぞ」
トロシカヤは喜んだ。
「本当にかわいいな。娘、こっちへ来て酒をつげ」
見知らぬ超美少女はトロシカヤの横に座ると、無言で酒をついだ。
トロシカヤは気づいた。
「天神族の衣装じゃないか。天神族の娘なのか?」
見知らぬ超美少女はうなずいた。
「どこから来た?」
見知らぬ超美少女は森を指した。
「森から?」
トロシカヤは首を傾げた。
「はて? 森には天神族は住んでいないはずだが――。ま、まさか……」
ばっ!
トロシカヤは見知らぬ超美少女の胸を触ってみた。
「ない!」
トロシカヤの酔は一瞬で覚めた。
「しかも胸板が厚い! きっさまぁ〜!」
グサッ!
気づくのが遅かった。
トロシカヤは小碓命の剣を胸に突き立てたまま、立ち上がって言い放った。
「無礼者! 下がれっ! わしはクマソの梟帥だぞっ!!」
小碓命は頭巾を取って立ち上がって言い返した。
「ひかえおろーっ! おまえがクマソのタケルなら、俺はヤマトのタケルであるぞっ!」
グリグリッ、グリーングリーン!
小碓命は突き立てた剣を引っかき回した後、
すっぽーん!
思いっきり引っこ抜いた。
「ぐあぁあぁー!」
トロシカヤは真っ赤になって崩れ倒れた。
小碓命は騒ぎ出したクマソの人々に大声で触れた。
「今よりソの国はヤマトが直接統治する! ヤマトのタケルはクマソのタケルでもあるぞっ!
文句がある者はかかってこい! ただし、俺を倒せたとしても、ヤマトの大軍が全力でてめーらをつぶしに来るであろう!」
クマソの人々で抵抗する者はいなかった。
「クマソ平定はなった! とっとと帰国するぞっ!」
「ははーっ」
弟彦公たち監視役も、小碓命に従うしかなかった。
(「火元味」へつづく)
[2021年11月末日執筆]
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※ 『記紀』には殺人犯を放置したり、自分を殺しにきたヤツを褒め称えるなど不自然な表現があるため、現実的な物語に改変しました。