1.大仏貞直死す! | ||||||||||||||
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死にたくないんです!
痛いのは嫌なんです!
明日がないなんてありえません!
明日がなくなっちゃうなんて信じられません!
だって、今までもれなくあったじゃないですか!
昨日も、一昨日も、その前も、ずっとずっとずっと、明日はあり続けたじゃないですか!
それがなくなっちゃうなんて、いったいどうなっちゃうんでしょうか?
「鎌倉はもう終わりだ」
周りのみんなは口々に言います。
「新田義貞は鬼だ」
「鬼の手下たちに鎌倉の人々はみんな殺されちゃうんだ」
「何も怖いことはない。みんな死んじゃうんだからな」
「あの世は楽しいぞう〜」
「そうだ!お経でも読んでおこう!」
みんなみんな、悲観的を超えて楽観的になっています。
みんなとは塩田(しおだ)家の人々です。
申し遅れました。
拙者は長年、塩田国時(くにとき。北条国時)様に仕えてきた狩野五郎重光(かのうごろうしげみつ)という者です。
そこへ新たな知らせが舞い込んできました。
「大仏貞直(おさらぎさだなお。北条貞直。陸奥守)殿が斬り死になされたそうだ」
貞直殿といえば、極楽寺坂を死守し続けていた猛将でした。
なのに新田軍による稲村ヶ崎渡渉というありえない作戦で背後を取られ、前後から挟み撃ちを食らって敗れてしまいました(「操縦味」参照)。
悲観した郎党三十人が次々と浜辺で自害しましたが、貞直殿は激怒しました。
『日本一の不覚者かな!千騎が一騎になるまで敵を倒し続けて後世に名をとどろかせてこそ、勇士の本意とすることころなり!いざさらば!最後の一合戦を快うして武士の大義を示すべし!』
貞直殿は残兵二百騎を率いると、新田軍の極楽寺坂方面隊副将軍・大島守之(おおしまもりゆき)隊の中に突っ込みました。
が、多勢に無勢です。
瞬く間に二百騎が六十騎まで減ってしまいました。
『これ以上雑魚ばかり相手にするな。これでは無駄死にだ』
貞直殿は作戦変更しました。
『名のある武将一人を全員で狙って襲いかかることにする』
『名のある武将とは?』
『アイツだ』
『アイツ?誰ですかアイツって?』
『新田義貞の弟、脇屋義助(わきやよしすけ)!』
『おお、アイツが脇屋か!』
『おもしれー!』
『相手にとって不足はねえー!』
『みなの衆、かかれーっ! 狙うは脇屋義助の首のみっ!』
『おおーっ!』
ドドドドド!
脇屋義助は火の玉のように迫ってくる六十騎の刺客に気付きました。
『死ねや脇屋ーっ!』
『今から首を取ってやるぜー!』
『見よ!この目にもとまらぬ足さばきを!』
ひょい!
義助は闘牛の要領で母衣(ほろ)を翻しました。
『後は任せた』
で、暑苦しいそいつらの処分を部下たちに丸投げしたんです。
『待て脇屋!』
『雑魚どもはどいてなっ!』
『引き返せ、卑怯者ーっ!』
ドッカ!
バッキ!
フルボッコ!
炎の刺客団は玉砕しました。
貞直殿の享年は不明です。