4.塩田国時死す! | ||||||||||||||
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こうして三方の坂を破られ、もう一方の海からも攻めこまれた鎌倉幕府に、いよいよ滅亡が迫ってきました。
当然、我が主人・塩田国時様にも死が迫ってきました。
新田軍の船田義昌(ふなだよしまさ)隊に自邸を取り囲まれてしまったのです。
国時様の子・俊時様が父に勧めました。
「もはやこれまでです。敵に攻め込まれる前に、どうか御自害を」
それでも国時様はお経を読んでいるだけでした。
俊時様は焦りました。
「早くしないと無様に首を取られちゃいますよっ!かくなる上はっ」
ぬぎ!ぬぎ!
ブシー!ギリギリ〜。
ハラワタブシャー!
俊時様は自刃して見せました。
ばた!
息子が突っ伏しても、国時様は、
「おお!ならばなおのこと供養のために経を読まなければ」
と、読経を続けました。
のたうち!のたうち!
ぶすう!
拙者は血だまりの中でうごめいていた俊時様を介錯(かいしゃく)してあげました。
「五郎。わしもこの法華経を読み終えたら切腹する。わしの介錯も頼む。その後で館に火をかけてくれ。敵にわしらの首を取らせるな!」
「御意」
国時様の命で、拙者は一人、そばにいることになりました。
国時様は他の郎党二百騎にはこう命じました。
「あとの者たちは防戦せよ!わしが経を読み終えるまで、一兵たりとも敵を館の中に入れるな!」
「ははーっ!」
郎党たちは弓や刀を手にして四方の守りにつきました。
法華経は八巻二十八品あります。
ちょっとやそっとで読み終えられる量ではありません。
拙者がのぞいてみると、国時様はまだ五巻の十二品をゆっくり読んでいました。
拙者は焦りました。
(これじゃあ読み終わるまで持ちこたえられないだろー!)
そこで四方の守りの様子を見に行ったふりをして、こんなウソの報告をしました。
「防戦していた郎党たちはもうみんな討ち取られちゃいました!まもなく敵が乱入します!さあ、早く御自害を!」
「それはまずい!」
国時様は即座に脇差を抜きました。
スパーン!グイーン!
ボコ!ボコッ!どろりん、ぞろぞろり〜ん。
で、見事に腹を十文字にかき切ると、
どた!
俊時様と同じ枕で寝ました。
国時様や俊時様の享年も不明です。