2.豊臣秀吉はサルそっくりか? | ||||||||||||||
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天正十三年(1585)七月、四国の長宗我部元親は降伏(四国平定)、羽柴秀吉は「藤原秀吉(近衛前久猶子)」として関白に就任、九月に「豊臣姓」を賜り「豊臣秀吉」となった。
京都の女子供は、秀吉の行列を見て黄色い声を上げた。
「キャー! 関白殿下の行列よー!」
「秀吉サマー!」
「豊ちゃーん、こっち向いてー!」
秀吉はサービス満点である。
声のするほう声のするほうにくまなく顔を向けてあげた。
「きゃー! ほんまにこっち向いたわー!」
「うちのために向いてくれたんやわー!」
「あんたじゃなくてわらわのためよー!」
秀吉はいい気になった。
京童たちはうわさした。
「それにしても秀吉様って、おサルそっくりやねー」
「プッ! ホントのこと言わなーい」
「わーい! サルだサルだー!」
秀吉は不機嫌になった。
そんなことは若いときから長年言われ続けてきたことである。
しかし、上司や同僚に言われるのと、下々の者たちに言われるのはわけが違う。
そこへ秀吉の盟友・前田利家が油を注いだ。
「殿下。怒ってなりませんぞ。怒ってはますます顔が赤く――」
「やかましーわ、おみゃー! とろくせーこと言っとるな! たーけぇ!」
利家はあせった。
(いかんいかん。秀吉は怒りが最高潮に達すると尾張弁が飛び出すんじゃった……)
そこでそばにいた曽呂利新左衛門を秀吉に押しやった。
「なになに、ちょっと怖いぃ〜」
新左衛門は嫌がった。
「お前しかいないのだ。なんとかしてくれ」
「そう言わはってもぅ〜」
秀吉は新左衛門に気づいた。
「なんじゃ?」
「へい。その……、別にあの! その! なんのっ!」
「お前もわしの顔を見て笑いに来たのか?」
「いえ、その! まことにケッコーコケッコーなお顔で、いつも拝み倒して、じゃなくて、はいーっ!」
「ふん。心の底ではお前も思っているんじゃろう?『はい! 秀吉の顔はおサルそっくりー!』なーんてな」
「全然」
「本当に思ってないか?」
「全然! 全然! 全然っ!」
「何度も否定されると余計に落ち込むわー。フン!フン!」
いじける秀吉に、新左衛門は言った。
「殿下のお顔がサルめにソックリなんてとんでもございません。サルめの顔こそ、殿下にソックリなのでございます〜」
秀吉は顔を上げた。
その顔は笑っていた。大笑いしていた。
「ハッハッハ! よくぞ言った! それでこそ、天下一の大芸人じゃ!」