4.横山静子 | ||||||||||||||
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三原(みはら。広島県三原市)に「酔心(すいしん。醉心)」という地酒があります。
万延元年(1860)に尾道(おのみち。広島県尾道市)から移ってきた山根忠兵衛(やまねちゅうべえ)が造り始めました。
昭和時代初期、三代目・山根薫(かおる)が東京に支店を出しました。
その店に連日一升二升三升当たり前に酒を買いに来る貴婦人がいました。
(毎日こんなにたくさんのお酒を買いに来られて……。旅館の女将(おかみ)でもされているのだろうか?)
ある日、店員は不思議に思って聞いてみました。
「毎度ありがとうございます。よろしかったら届けて差し上げますが、どちら様でしょうか?」
「横山です」
店員は近所に住んでいる有名人を思い出しました。
「え!ひょっとして、大観先生の!?」
「はい。私が横山大観三番目の妻の静子(しずこ)です」
昭和十六年(1941)、広島出身の衆院議員(望月圭介?)の葬儀の際に大観と薫は出会いました。
「先生、毎度ありがとうございます。山根薫です」
「ほう、辛口なのにまろやかな、あの『酔心』を造っているのは君か」
大観は山根を自邸に招いて談笑し、意気投合してしまいました。
「酒造りも絵画も同じ芸術なんだな。『酔心』のうまさは芸術を極めている。毎日飲み続けても飲み飽きることはない」
「うれしいです。そんなにお気に入りでしたら、もう先生の所に生涯無料で贈ってあげちゃいましょう!」
「ホントか?ずっとタダでくれるってか?」
「はい、約束しますよ」
「どんなことがあってもだぞ。俺にとって酒は主食なんだからな」
「ええ、もちろんですとも!」
それからというもの、山根は大観の自邸へ無料で「酔心」を贈るようになりました。
大観は約束なので酒代は払いませんでしたが、毎年一作品以上は絵を描いて山根へ贈るようになりました。
そのおかげで酔心山根本店内には、「大観記念館」ができてしまったそうです。