2.土煙の中の男

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甘利明&ベッキー
1.煙たがられる男
2.土煙の中の男
3.煙になった男

 天文十七年(1548)二月、武田晴信軍と村上義清軍は上田原で激突した。
 武田軍総勢八千人
(または七千人)のうち、板垣信方率いる先鋒は三千五百人。
 一方の村上軍は総勢五千人
(または七千人)
「村上義清を破るくらい我が隊だけで十分だ」
 信方は果敢に攻め立てた。
 パッパカ、パッパカ、パッパカ、ヒッヒーン。
 馬に乗って槍
(やり)を奮って前線で勇戦した。
「殿に続けー!」
「お年寄りがあんなにも動いておられるのだ!」
「若者ももっと働けー!」
 家来たちもめざましく活躍した。
 そのため、村上軍は押された。
「退けー!」
 義清はたまらず撤退を命令した。
「このままですむと思うなよ!」

 パッパカ、パッパカ、パッパカ、ヒッヒーン。
「勝った!」
 信方は満足であった。
 安心したのか息が切れて、早く、
 プップカ、プップカ、プップカ、ポッポー。
 したくなった。

 村上軍はかなたに消え、続々と味方がたくさんの敵の首をぶら下げて帰ってきた。
「殿!敵の首をこんなに!」
「もう持ちきれません〜」
「後の者がもっとたくさん持ってきますので〜」
「これ以上たまっちゃったら、捨てるしかありませんよ〜」
 信方は言った。
「よーし、それならいったん首実検だ!幕を張れ!」
「え!もう終戦でよろしいので?」
「いいのだ」
「追撃しなくてもいいのですか?」
「深追いは危険だ。兵は勝つことを尊ぶ。久しきを尊ばず」
「ごもっともで」

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