1.愛人かぐや姫 | ||||||||||||||
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むかーし昔、竹取の翁(おきな)というオジイがいた。
名前は讃岐造(さぬきのみやつこ)といったが、野山で竹を採って暮らしていたので、そう呼ばれていた。
ある日、竹取の翁がいつものように竹やぶで竹を採っていると、
「竹取の翁殿。ちょっと頼みがある」
と、誰かに声をかけられた。
振り向いてみると、身分の高そうな公達(きんだち)。
「ど、どなた様でございますか?」
竹取の翁が聞くと、公達は言葉を濁した。
「事情があって名は名乗れぬ。そうだ。『タケちゃん』ということにしておこう」
「タケちゃん!?」
「そうだ。そちに女を預かって欲しいのだ。頼む。妻に見つかるとまずい愛人なのだ」
そう言うと公達は車から女を下ろした。
周囲に光が満ち満ちるような、目が覚めるようなブラボー美女であった。
「今すぐ頼む。生活費は後で払う。中秋の名月になったら迎えに行く。頼んだぞ」
公達はそういい残すと、車を飛ばして去っていった。
「え、そんな……。ちょっと!」
公達はすぐに見えなくなった。
竹取の翁は困った。
こんなところにブラボー美女を置いていくわけにもいかないので、家へ連れて帰った。
ブラボー美女と帰ってきた竹取の翁を見て、オバアが目を三角にして驚いた。
「その娘は、なんですえ!?」
翁はとっさに言い訳した。わざとらしく雄弁に語り始めた。
「それがその……、竹やぶでその、あ、そーそー。光っている竹の筒の中におわしましたんじゃよ。だから、つまり、というわけで、やむなく拾ってきたんじゃ。へっへっへ!」
オバアは疑っていた。
そんなバカげた話、信じられるはずがなかった。
「ウソおっしゃい!
ふん。どこぞの女に産ませた娘じゃないのかえ?」
「違うわい!
もうそんな元気ないわい!」
「そういえばこの頃、採ってくる竹の量が少なくなったわねえ〜」
「考えすぎじゃ! 年食って余り動けなくなっただけじゃ!」
たまらずブラボー美女が分け入って事情を説明した。
「かくかくしかじか、こーこーこういうわけなんですよ」
オバアは疑い深かった。
「さる高貴な公達の愛人? 本当かえ? まあ、おじいさんの娘にしてはベッピン過ぎると思ったけどねえ〜。預かるとなると、それなりの見返りをいただかなければねえ〜」
「もちろん、お礼はたっぷりいたします」
「たっぷり……。グフッ! ふーん、そうかえ」
翌日以降、竹取の翁は竹やぶから帰ってくるたびに金品をどっちゃり持って帰ってくるようになった。
日々増えていく金品を前にして、オバアも悪い気はしなくなった。
「ヒヒッ!
まるで突然舞い降りた福の神のようだねえ」
そうと分かると、手のひらを返したようにブラボー美女をとってもとってもかわいがるようになった。
こうして竹取の翁は、にわか成金になった。
ブラボー美女は、仮の名として「かぐや姫」と名付けられた。