2.五人の貴公子 | ||||||||||||||
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近所の人はいぶかしがった。
「竹取の翁はどうして急に大金持ちになったんだ?」
「竹採りって、そんなにもうかるのか?」
「なんでも砂金の詰まった竹を何度も発見するうちに大富豪に成っちまったらしい」
「それに、ぶっ飛び美女がいるらしいぞ」
「どういうことだ?
オジイとオバアの娘か孫か?」
「なんでも竹やぶで拾ってきた娘だそうな。しかもたった三か月で成人し、ぶっ飛び美女になったという」
「そんなもん、オレも拾いてー!」
ぶっ飛び美女かぐや姫のうわさは、たちまち天下にとどろいた。
「そんなにすごい美女がいるのか」
うわさを聞いた天下の好色男たちが続々と竹取の翁の家にやって来て求婚した。
「かぐちゃん、見せてっ」
「いっぺん見せてけろー」
「お願いしますだ!」
「姫と結婚させてくだせー」
「おいどんが幸せにするでごわす」
が、竹取の翁とオバアはことごとく断ってやった。
当然、人妻かぐや姫の本意であった。
しかし、断るに断れない、しつこくて高貴でやっかいな御方たちがあった。
石作皇子、車持皇子、阿倍御主人(あべのみうし)、大伴御行(おおとものみゆき)、石上麻呂(いそのかみのまろ)なる五人の貴公子である。
いずれも当時の朝廷で幅を利かせていた、政界トップの面々であった。
五人の貴公子たちは口々に言った。
「どんなに拒んでも、いずれは誰かと結婚する身ではないか。そうであれば、最高身分のこの五人からダンナを選んでいただきたい」
竹取の翁は困った。
かぐや姫に聞いてみた。
「こうなったら、人妻だということをばらしてしまいましょうか?」
かぐや姫は考えた。
そして、いいことを思い付いた(悪いことだが……)。
「それなら、私が欲しがっているものを持ってきてくれた人と結婚することにするわ」
竹取の翁は驚いた。
「へ! そんな約束していいんですか!? 持ってこられたら、本当に結婚しなければならないのですよ!」
「大丈夫だってぇー」
かぐや姫は耳元でコショコショと言った。
竹取の翁は安心した。
「なーるほど、それなら絶対に持って来られるはずがないわい。姫もワルですな〜」
竹取の翁はメモを持って庭に出ると、五人の貴公子に告げた。
「姫は、姫の欲しがっている品物を持ってきてくれた方と結婚するそうですよ」
五人の貴公子は色めきたった。
「本当か!」
「姫は何が欲しいんだ?」
「よし、オレ様が真っ先に取ってきてやろう!」
竹取の翁はメモを読み上げた。
「各々方、それぞれ次のものを持ってこられたし」
石作皇子 | → | 仏の石の鉢 |
車持皇子 | → | 蓬莱(ほうらい)の玉の枝 |
阿倍御主人 | → | 火鼠(ひねずみ)の皮衣 |
大伴御行 | → | 竜の首の玉 |
石上麻呂 | → | 燕(つばめ)が持っているという子安貝 |
「仏の石の鉢とはなんだ?」
「お釈迦様が使っていたという、光り輝く食器です」
「蓬莱の玉の枝というのは、どこにあるのだ?」
「はるかはるか東方海上の蓬莱山という山にあるそうです」
「火鼠の皮衣とはなんだ?」
「唐土(もろこし。中国)にいるネズミの皮で、火にくべても燃えないそうです」
「竜とは、あの伝説上の生き物のことか?」
「その通りです」
「燕が子安貝を持っているなんて、聞いたことないぞ」
「卵を産む瞬間にだけ持っているそうですよ」
五人の貴公子は怒り出した。
「なんだそれ!」
「そんなもん、どこをどう探せというのだ!」
「持ってこられるはずないじゃないか!」
竹取の翁は言ってやった。
「それなら、姫のことはあきらめることですな。へっへっへ!」
五人の貴公子は悔しがった。
「姫も姫だ。嫌なら嫌だとはっきり断ればいいのに、なんてイジワルをなさるんだ!」
「イジワルではありません!」
家の中からかぐや姫が言い放った。
初めてかぐや姫の声を聞いた五人の貴公子は、しゅんと静まり返った。
かぐや姫は高飛車に言ってのけた。
「私のためなら全然難しくなくってよ! 誰か私を喜ばせてくれる男はいないの? 私のために命を賭(か)けてくれる男はいないのっ!?」
五人の貴公子は奮い立った。駆け出した。弾丸と化して散っていった。
「うぉぉぉー!
オレは採ってくるぞーー!」
「私もだ!」
「たとえ火の中!
水の中!」
「いとしのかぐやのために!」
「我が愛に、不可能はナーシッ!」