ホーム>バックナンバー2014>2.大江広元(おおえひろもと)が変
梶原景時に公文書の一部を奪われた大江広元は困っていた。
広元の様子がおかしいのを、尼御台(あまみだい)・北条政子(「北条氏系図」参照)は見逃さなかった。
「どうしました?」
「いえ、何でもないです」
「何でもないわけないでしょう。おどおどして。隠し事は許しませんよ」
政子の前では何人も観念するしかなかった。
「実は、梶原景時が『歴史というものは事実を伝えるべきだ』と、正論を申しまして」
「ふーん、正論ね。――で、具体的に何のことなの?」
「先代鎌倉殿の死についてです」
これには政子の表情が固まった。
「なるほどね。景時が本当のことをみんなにばらすと脅してきたわけね」
「脅してきてはいません。歴史は事実を伝えなければならないと」
「同じことじゃないですか」
「……」
「亡き夫、源頼朝は変態ではありません」
「当たり前です」
「でも、さっきあなたは夫を変態扱いすることは正論だと」
「そんなこと言ってませんて!」
「まあいいわ。それであなたは景時をどうするつもりなの?」
「説得します」
「ふふふ、あの頑固者を説得させられると思っているんですか?」
「……」
「景時は関東の逆鱗(げきりん)に触れたのです。もはや始末するしかないでしょう」
「しまつ!」
「大丈夫。あなたは味方になるだけでいいわ。とりあえず、景時嫌いの私の妹を動かしてみようかしら」


