3.阿波局も変

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張成沢の変
1.源頼朝は変
2.大江広元が変
3.阿波局も変
4.北条政子も変
5.梶原景時の変

 北条政子の妹とは阿波局(あわのつぼね。「北条氏系図」参照)
 源頼朝の弟の一人・阿野全成
(あののぜんじょう・ぜんせい)の妻で、源千幡(みなもとのせんまん。後の実朝)の乳母である(「清和源氏系図」参照)
 全成の母は常盤御前。
 つまり、かつて梶原景時によって追い落とされた源義経の同母兄であった。
 政子は妹をたきつけたのであろう。
「とうとう景時があなたの夫にも目を付けたわ」
「はあ?」
「そう。もうじきあなたの夫は景時の讒言
(ざんげん)によって終わりを迎えるのよ」
「へ!」
「人を追い落とすことにかけては景時の右に出る者はいないわ。残念だけど、夫のことはあきらめなさい」
「そ、そんな……。あきらめられるわけないでしょ!」
 阿波局は政子にすり寄った。
「姉さん、お願い!夫を助けて!」
「手がないわけではないわね」
「何をすればいいの?」
「やられる前にやればいいのよ」
 こしょこしょこしょ。
 政子は阿波局に策を授けた。

 阿波局は動いた。
 下総結城などの領主・結城朝光
(ゆうきともみつ。小山朝光)を訪ねたのである。
 朝光は頼朝の乳母・寒河尼
(さむかわのあま)の子で、幕府の宿老の一人であった。
「あなたはいつか御所
(鎌倉幕府大倉御所)の詰所で『忠臣は二君に事(つか)えず』と、『史記(古代中国の史書。司馬遷作)』の記述を引用したそうね?」
「ああ」
「で、その後でこう続けた。『まったくその通りだ。先代鎌倉殿が亡くなられた時、御遺言で止められたため出家しなかったが、今はそうしなかったことが悔やまれて仕方がない。当代は危なっかしく、薄氷を踏むような気がする』と」
「ああ。確かに言った言った。でも、そんな侍同士の雑談がどうかしたのか?」
「この時のことを景時が将軍
(源頼家)にチクッたのです。『先代に仕えていた朝光は当代に仕えるつもりはない。謀反でも考えているのではないか』と」
「何だと?」
「将軍は激怒しました。近々あなたを攻め滅ぼすと」
「バカな!」
 朝光は思わず立ち上がった。
「拙者が謀反など考えるはずがない!根も葉もない妄想だ!景時め!いったい何を言い出すのだ!」
 阿波局も立ち上がった。
「景時の讒言は脅威です。ついこの間も彼の讒言のせいであやうく安達景盛
(あだちかげもり)殿が攻め滅ぼされそうになりました。将軍にオンナを奪われた景盛が恨んで謀反を起こすのではないかと」
「クッソー!拙者はどうすればいいのか!」
 阿波局が耳元で答えを教えてあげた。
「やられる前にやればいいのよ」

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