2.鳥居やるしかないって

ホーム>バックナンバー2018>平成三十年7月号(通算201号)猛暑味 万平二百四十二歳2.鳥居やるしかないって

大迫半端ないって
1.水野やる気ないって
2.鳥居やるしかないって
3.跡部ディスってるって

 老中首座・水野忠邦の復任にはいきさつがあった。
 上知令に反対して忠邦を失脚させて老中首座を襲った土井利位
(どいとしつら)は、政権を担うと存外頼りなかった。
 天保十五年(1844)五月に江戸城本丸が出火炎上すると、再建の普請総督に任命されたが、思うように資金が集められずに投げ出してしまった。
 海防も無策だったため、将軍徳川家慶忠邦復任を望んだという。
 しかし、忠邦はもう、天保の改革時の覇気ある清廉潔白男ではなくなっていた。
 忠邦は鳥居耀蔵を呼びつけて命じた。
「濁ったおまえたち役人どもにいい話をやろう」
「何でしょうか?」
「永代橋
(えいたいばし。東京都中央区)をかけ直せ。どうだ、おいしいだろ?」
「……」
 でも、耀蔵は気が進まなかった。
「どうした?永代橋は江戸城の海の玄関のようなものだ。庶民や夷人に威勢を示すため、大きくかけ直せと言ったのだ」 
「しかし大きくかけ直せば、多くの人が通ります」
「そりゃそうだ」
「そうすると、以前のような崩落事故が――」
 去る文化四年(1807)八月、江戸第一の長橋だった永代橋は、祭礼のため富岡八幡宮
(とみおかはちまんぐう。東京都江東区。深川八幡宮)へ向かう群衆数千人のために乗りつぶされ、二千人という未曽有の死者行方不明者を出していた。
「そんなもん、数千人乗っても大丈夫の橋を造ればいいだけであろう」
「それはちょっと技術的に――」
「だったら通行制限を設ければいい」
「その方が現実的です」
「では、それで前に進めよ」
「御意」
「これは我が政権の再起を占う事業でもある」
「ですな」
「不備のないよう、必ず成功させろ」
「ははっ」
「さて、竣工式の渡り初めには誰を渡らせようか?」
「縁起のいい方でしょうな」
「そうだ!橋が長持ちするよう、日本一長寿の人を探して渡ってもらおう!」
「長寿日本一については確認済みです。三河に住んでいる百姓がソレです。竣工式にはその者を連れてきて渡らせましょう」

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