3.三輪伝説V 〜お持ち帰り『古事記』パート2 | ||||||||||||||
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● もう一つの古事記の説話 ●
昔、勢夜陀多良比売(せやだたらひめ)という美女がいた。
「そんなに美人なのか」
うわさを聞きつけた大物主神が見にいってみると、うわさ以上であった。
「おお、すごすぎる!」
大物主神は勢夜陀多良比売に一目ぼれした。夢中になった。なんとか彼女が外へ出たときを見計らって声をかけようと試みた。
でも彼女、かなりの出不精のようで、トイレのときしか外出しなかった。しかも用がすめば、すぐに家の中に引っ込んでしまうのである。
これでは声をかけるチャンスがない。用を足している最中しか、チャンスがない。
「まさか最中に声をかけるわけには……」
はじめはそう思ったであろうが、ほかに機会がないので、強硬手段に出るしかなかった。
「それにしても、どうやって声をかけようか」
大物主神は考えた。いいことを思いついた。
赤い矢に化けると、勢夜陀多良比売が用を足しに来る頃を見計らって川の上流から流れてみたのである。
なかなか気づいてくれなかったので、彼女の下を流れていくときに、しりをつっついてみた。
彼女はびっくりして気が付いた。
「あら。きれいな矢」
彼女はそれを家に持ち帰った。
寝床のわきに置いておくと、大物主神は男の姿に戻り、二人は結ばれたという。
* * *
※ 『山城国風土記』逸文や『秦氏本系帳(はたうじほんけいちょう)』や『賀茂縁起(かもえんぎ)』などにも類似の話があるが、いささか登場人物の名前が異なっている。
● 検 証 ●
この説話において不自然な点は、大物主神が矢に化けたという点である。
しかしこれは「化けた」ではなく「変装した」に置き換えれば解決する。
つまり大物主神は、赤い矢に変装して勢夜陀多良比売に近づいたのである。
では、なぜ矢になって近づかなければならなかったのであろうか?
なぜ赤くなければらなかったのであろうか?
理由は簡単である。
大物主神は矢に変装することによって、
「やぁ!」
と、オヤジギャグをぶっ放したかったのである。
「完璧なギャグだ」
大物主神は思った。
「これなら彼女もイチコロだ」
ほとんど確信した。
そして、それを実行に移した。
矢に変装し、彼女が用を足しに出てくる頃を見計らって、川の上流から流れてみたのである。
ところが、彼女は気づいてくれなかった(無視かもしれない)。
そのため彼は、はるか下流まで流されていった。
「失敗か」
彼は岸に上がって舌打ちした。
しかし、自分の考え方が間違っているとは思えなかった。ギャグが失敗したのではない。彼女が気づいてくれなかったから失敗したのである。
翌日、彼はまたしても彼女が出てくる頃を見計らって川の上流から流れてみた。
今度は目立つように、全身赤塗りにした矢に変装して流れてやった。
「今度こそギャグを言うんだ!」
ところが、またしても彼女は気づいてくれなかった(無視であろう)。
そのため彼は、前日よりはるかはるか下流まで流されていった。
「また失敗か」
彼は身震いしながら浜辺に上がった。
彼はこりなかった。
翌日も全身赤塗りにして流れてやった。
だが、彼女は今日も無視である。
(このままでは、今日も海まで流されてしまう……)
危機を感じた彼は、たまりかねて彼女の下からしりを突っついてみた。
これではさすがに彼女も無視できなかった。
彼は立ち上がった。
そして、今までずっと耐え忍び、胸に秘めていたオヤジギャグを、これでもかと言わんばかりの満面の笑顔でぶっ放した。
「やぁ!」
彼女はシラけていた。笑ってくれなかった。
「やぁ! やぁ!」
彼は躍起になって連呼した。
むなしかった。切なかった。
そして、彼は倒れた。連日流されたため、風邪を引き、高熱を発していたのである。
彼女は泣いた。いろいろな意味の涙を流した。
「なんて、バカな男……」
彼は彼女の家に運び込まれ、介抱された。
「君のせいだ」
彼がじめじめと言った。自分のやったこと(どう考えてもセクハラ)を棚に上げて、彼女のことを非難した。ついでに口説いた。体調が悪いことをいいことに、彼女にべたべた甘えてやった。
やがて二人に愛が芽生えた。彼は風邪が治っても、家には戻らなかった。
[2002年12月末日執筆]
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