4.扇動!藤原雄友!!

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奈良という古都
1.秘密!伊予親王!!
2.忠告!藤原緒嗣!!
3.勧誘!藤原宗成!!
4.扇動!藤原雄友!!
5.窮鼠!藤原内麻呂!!
6.転換!藤原仲成!!

 藤原仲成はその足で山城の栗前(くりくま。栗隈。京都府宇治市)にある藤原雄友の別邸へ向かった。
「誰だ?」
「はい。式家の仲成という者です。少々重大情報を耳に入れましたので、至急、大納言雄友卿にお取次ぎのほどを」
 雄友はにこやかにすぐ出てきた。
「おお、左衛士督
(さえじのかみ。左衛士府長官≒宮城警備隊長)仲成殿。遠路はるばるよーこそ」
 天皇の寵妃
(ちょうき)の実兄ならどんなときも大歓迎であった。
 仲成は切り出した。
「実は、大きな声では申せませんので、お人払いを」
「おお、そうだな。おい、おまえたち。シッ!シッ!」
 雄友はそこらにいた人々を追っ払ってから聞いた。
「――して、重大情報とは?」
「謀反に関する情報でございます」
「なんと!」
 雄友は仰天した。
「誰が謀反をたくらんでいるのだ?」
「伊予親王殿下――」
「いよー!!」
「シッ!最後までお聞きください!伊予親王殿下を謀反の首謀者に無理やり仕立て上げようとしている不埒
(ふらち)なヤツがいるんです」
「だ、だっ、誰がそのようなことを……!?」
北家永手のひ孫、藤原宗成です」
北家だと!?」
「宗成は小人です。小人ですが北家の一員です。つまり、内麻呂率いる北家の連中は、小人を使って伊予親王に無実の罪をかぶせ、あなた方南家をつぶそうとしているのです」
「何だってぇー!!」
 雄友は驚愕
(きょうがく)した。
「信じられぬ。あの穏健な内麻呂公が……」
「穏健なのは外見だけです。内麻呂は影ではすでに動いています。ヤツはすでに娘を神野親王に近づかせました。神野親王を擁立することが北家の狙
(ねら)いなのです。つまり、北家の連中にとって、伊予親王を擁するあなた方南家や、今上帝を擁する我々式家が邪魔なんですよ。わかりますね?北家はまず、あなた方南家に目をつけたわけなんです」
「うぬぬ……」
「我々式家としては、北家の陰謀をこのまま見過ごすわけにはいきません。南家がつぶれた後は、当然、式家も明日は我が身ですから」
「うーむ……」
「そこで提案です。北家の陰謀を打ち破るには、南家と式家が連合して対するしかないと存じますが」
「もっともだ。式家が味方になってくれれば、我が南家も心強い。しかし物騒なことはおれは好まないぞ」
「物騒なことにはなりません。まずは宗成を徹底して監視することです。情報というものはガセという可能性もあります。事が重大なだけに、慎重を期さなければなりません」
「もっともだ。できればガセであって欲しいものだ」
「で、もし本当に宗成が殿下に謀反を勧めた場合は、すぐにこれを逮捕してしまえばいいのです。宗成だけが悪いうちに、内麻呂に突き出してしまえばいいのです。『これはどういうことだね!』そう内麻呂を問いただせばいいのです」
「なるほど。正道だな」
「責任を感じた内麻呂は、右大臣を辞めざるを得ません。もちろん、南家が北家を口撃する際は、式家は全面的に南家を支持します。そもそもヘマをした北家に、式家が味方するはずがありません。こうしてあなたは武力を使うこともなく、難なく大納言から右大臣に自動昇格することができるのです」
「おれが右大臣に!?」
 雄友はウホホと喜びをあらわにした。
「なんだ。お家存亡の危機かと思っていたら、お家繁栄の絶好機ではないか!」
「そうですよ!これは好機なんですよ!危機というものは、いつでも好機に切り替えることができるんですよっ!」
 雄友は愉快そうに笑った。仲成をほめたたえた。
「さすが希代の策士の流れを汲む者だな。いい事を教えてくれた。――ただし、おれはそなたが考えているよりも欲張りだぞ」
「どうぞ!欲望のままに突き進みくださいませっ!」
「そなた、言うの〜う」

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