2.発 覚 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2021>令和三年2月号(通算232号)変異味 布引の滝の変異2.発覚
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志内景澄は三条烏丸(さんじょうからすま)で下宿していた。
志内は家主に源義平を紹介した。
「コイツは新しく雇った下人だ。旧知の郷里のヤツだ。すまんが、これからはコイツの食事も作ってくれ。下人なので、私の食事より粗末なものでよい」
「お安い御用ですが」
その日から家主は二人分の食事を用意するようになったが、気になることがあった。
「それから、私達が食事をしている時は、どうか部屋をのぞかないで欲しい」
「わかりました」
しかし、のぞくなと言われると、のぞきたくなるものである。
(はてはて? 若い男同士でよからぬことでもしてはるんだろうか?)
そこで家主がこっそりのぞいてみると、二人は普通に食事していた。
(なんだ、つまらん)
が、変なことに気がついた。
志内が下座におり、下人であるはずの男が上座にいたのである。
(あれ?)
しかも、下人であるはずの男は豪華な方の食事を取り、志内が下人用の粗末な食事を取っていたのである。
家主は不思議がった。
(どういうことだ? これではまるで志内殿が臣下のようではないか)
家主は思い出した。
(そういえば、志内殿は平清盛さまに仕える前は源義朝の臣下だったという……)
家主はハッと気が付いた。
(――ということは、あの男は、お尋ね者の悪源太義平!)
家主は六波羅の清盛に通報した。
「何! 悪源太が京内に潜んでいるだと!」
清盛はすぐさま腹心の難波経遠に三百余騎を与えて三条烏丸に向かわせた。
ドン!ドン!ドン!
「悪源太義平!ここにいるのはわかっている! 神妙にお縄を頂戴しろや!」
ガラララ。
応対したのは、下人のふりをしている義平である。
「うるさいな〜、そんなにたたかなくてもわかりますって〜」
「あっ、悪源太!」
経遠はすぐさま気が付いた。
義平がニヤッとする間もなく、「石切丸」が火を吹いた。
どこっ!がしっ!すばっ!
どう!バタッ!
たちまち経遠の配下が二、三人地に伏し、空いた隙間からダッと逃走した。
「追えっ!逃がすなっ!」
経遠は追わせたが、
ちゃりーん!
ぶさ! グサ!
二、三人が返り討ちにされると、怖気づいて誰も追わなくなった。
で、
「あばよ!」
と、逃げ失せられてしまったのである。
「クソッタレが!」
経遠は志内を逮捕して六波羅に連行した。
志内は六条河原へしょっ引かれ、斬首されてしまった。享年二十三。