2.キレるキレる花房職秀

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チェンジなオバマとブレる麻生
1.小田原攻め参陣
2.キレるキレる花房職秀
3.ブレるブレる豊臣秀吉

 小田原攻めにおける豊臣秀吉の本陣は、石垣山一夜城(神奈川県小田原市)である。
 一夜城といっても、美濃攻めの際の墨俣
(すのまた。洲股。岐阜県大垣市)城のようなチンケなものではなく、総石垣で天守閣まで備えた本格的な城であった。築城には八十日を要したが、極秘に工事を進め、完成とともに周囲の木々を切り倒したため、小田原城に籠もる北条方からは一夜で完成したように見えたわけである。

 花房正幸がうわさの石垣山城天守閣を眺めて感心した。
「なるほど。あんなもんが一夜にして目の前にそびえ建てば、敵もぶったまげたであろうな」
 天守閣が近づいてくると、とたん人の数が増えてきた。男だけではなく女子供まで大勢いる。
 露店も軒を連ね、みなみな笑顔で飲み食い歩き、戦場の雰囲気はまったくなかった。
 宇喜多詮家が喜んだ。
「まるでお祭りのようだな」
 彼は直家の弟・忠家
(ただいえ)の子で、秀家の従兄弟である(「宇喜多氏系図」参照)。後に坂崎直盛(さかざきなおもり。成正。出羽守)と名を改め、かの大坂夏の陣では徳川千姫(せんひめ。秀忠の娘)救出で名を馳せることになる。
 詮家が人ごみの中からめぼしい娘を発見して、指差してみんなに教えてあげた。
「おい。あそこにきれいな娘がいるぞ」
 戸川達安が目の色変えて反応した。
「何!アソコがきれいな娘がいるだと!どこっ?どこっ?」
「スケベ!『が』ではない!『に』だ!」
「ほー、なるほどなるほど。ありゃ妄想がかき立てられるわ〜」
「スケベ〜スケベ〜スケベ〜」
 これには花房職秀が不機嫌な顔をした。
「コラ!スケベースケベーと何度も言うなあー!」
 詮家は職秀の通称が助兵衛だったことを思い出し、吹き出した。
「プッ!そうだったな。ここに正真正銘のスケベエ殿がござったか。悪気はない。すまんすまん、スケベエ殿」
「ぬぬっ!スケベエではなく、スケノヒョーエのほうで呼べっ!」
「同じじゃないか〜、スケベエ殿」
「同じではないわあー!」

 周りにいた女子たちがクスクス笑い出した。
「あの馬に乗った右から三番目のおじさん。スケベエって名前なんだって」
「キャハハ!いわれてみると、いかにもって感じ〜」
「かわいそ〜。生涯そう言われ続けるのね〜」
「こら!聞こえるよっ!」

 職秀はムカついた。
「そもそもなぜ戦場に女子供がいるのだ!イライラするわー!」
 正幸が教えてあげた。
「殿下の御命令じゃよ。長陣になるから諸将に妻子を呼び寄せることを許可したんじゃ。だから御自分も愛妾淀殿
(よどどの。淀君)を呼び寄せて、日々歌会や見物などをして楽しんでおられるそうな。北条に対する心理作戦の一つじゃよ」
「そんな作戦は邪道だっ!戦場に女子供がいれば、士気が乱れるわーっ!」

 いよいよ秀吉の本陣が近づいてきた。
 楢村玄正が先に行って帰ってきて告げた。
「細川幽斎様は本日まだ本陣に来ておられないとのこと。ただ、私の父はおりますので、しばらく話してまいります」
「そうか。そんならオレたちはそこらでしばらくブラブラしていることにするか」
「女の物色っすか?」
「このスケベー」
「コノヤロー!もうスケベーって言うなー!!」
 職秀は終始不機嫌でキレまくっていた。

 せっかくここまで来たので、秀吉の本陣の前も通ってみることにした。
「さすがにここが一番にぎやかですな」
 一同が通り過ぎようとすると、本陣の番人が制した。
「こらこら。どこの家中の者どもだ?」
「かの高名な宇喜多家ですが」
関白殿下の御本陣の御前である。下馬して通られよ」
「あ、これは失礼」
 詮家は馬を下りた。
「うっかりしてました」
「失礼つかまつった」
「どっこいしょ」
 正幸も達安も長船綱直も下りたが、職秀だけは下りようとはしなかった。
 番人がとがめた。
「その仁も下りよっ」
 職秀は無視してそのまま通り過ぎようとした。
 番人は立ちはだかってどなった。
関白殿下の御前なるぞ!ひかえおろーっ!」
 正幸もとがめた。
「職秀、何をしている?下りよっ!」
 詮家らも目で促したが、職秀は聞かなかった。
「戦場でなどを楽しんでいるあきれた大将に、いちいち下馬なんぞしておられようか」
「な、なんだとー!」
「のけ!番人!」
「ならぬ!下馬するまでは、のかぬ!」
「それならこうしてやる」
 職秀はツバを吐きかけた。
 ペペッ!
「うえっ!きったねー!」
 番人がひるんだすきに、職秀は高笑いして通り過ぎていってしまった。

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