3.ブレるブレる豊臣秀吉

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チェンジなオバマとブレる麻生
1.小田原攻め参陣
2.キレるキレる花房職秀
3.ブレるブレる豊臣秀吉
豊臣秀吉 PROFILE
【生没年】 1536or1537-1598
【別 名】 猿?・日吉丸?・木下藤吉郎・羽柴秀吉
・藤原秀吉・豊国大明神
【出 身】 尾張国愛知郡中村(名古屋市中村区)
【本 拠】 美濃墨俣城(岐阜県大垣市)→近江長浜城(滋賀県長浜市)
→播磨姫路城(兵庫県姫路市)→摂津大坂城(大阪市中央区)
・京都聚楽第(京都市上京区)・山城伏見城(京都市伏見区)
【職 業】 武将・公卿(政治家)
【役 職】 筑前守→右少将→参議→権大納言→内大臣
→関白・太政大臣→太閤
【位 階】 従五位下→従四位下→正四位下→従三位→正二位→従一位
【 父 】 木下弥右衛門(百姓・足軽?)
【 母 】 なか(大政所・天瑞院)
【義 父】 竹阿弥・近衛前久
【兄 弟】 とも(瑞竜院・日秀)・豊臣秀長・旭姫(朝日姫・南明院)
【義兄弟】 徳川家康・浅野長政・木下家定ら
【 妻 】 浅野おね(ねね・北政所・高台院)・淀殿(淀君・浅井茶々)
・京極竜子(松の丸殿)・三の丸殿(織田信長女)・南殿?
・前田麻阿(加賀殿。利家女)・三浦ふく(宇喜多直家室。法鮮尼)
古河姫君(月桂院。喜連川頼純女)・蒲生お虎(三条局。賢秀女)
・姫路殿(織田信包女)・甲斐殿(成田氏長女or妹)
・高田お種(香の前・安楽院。次郎右衛門女。鬼庭元綱室)ら
【 子 】 羽柴秀勝?・女児某?・豊臣鶴松・秀頼
【養 子】 羽柴秀勝(信長の子)・豊臣秀勝(三好吉房の子)
・豊臣秀次(吉房の子)・小早川秀秋(秀俊)・宇喜多秀家
結城秀康(徳川家康の子)・智仁親王(八条宮。正親町天皇の孫)
・近衛前子(前久女)・前田豪姫(利家女)・浅井お江与(崇源院)ら
【主 君】 松下之綱・織田信長・織田秀信・正親町天皇・後陽成天皇
【 師 】 細川幽斎(歌)・千利休(茶)ら
【部 下】 竹中重治・黒田孝高・石田三成・浅野長政・前田玄以
増田長盛・長束正家・加藤清正・福島正則・蜂須賀正勝
・中村一氏・堀尾吉晴・生駒親正・前田利家・蒲生氏郷ら
【仇 敵】 毛利輝元・明智光秀・柴田勝家・長宗我部元親・徳川家康
・織田信雄・佐々成政・島津義久・北条氏政・宣祖・万暦帝ら
【墓 地】 豊国廟(京都市東山区)・方広寺豊太閤塔(東山区)
【霊 地】 高台寺(京都市東山区)・豊国神社(東山区・大阪市中央区
・名古屋市中村区・滋賀県長浜市・岐阜県大垣市)

 憤懣(ふんまん)やるかたない番人は、花房職秀の無礼っぷりを豊臣秀吉に訴えた。
「かくかくしかじか、まったくとんでもないヤツでしてっ」
 聞いているうちに秀吉の青筋が立ってきた。
 楠木正虎も楢村玄正に聞いた。
「おまえは一部始終を見ていたのか?」
「え、ええ。まあ大体そのような感じで……」
 秀吉はメラメラ立ち上がった。
 低身短足のため、立ってもあまり代わり映えがしない。
「玄正。秀家を呼んでこい!即呼べ!すぐ呼べっ!」
「はあ!ただ今!」

 玄正はただちに主君宇喜多秀家を連れてきた。
秀家、参上いたしました」
「来たか」
 秀吉はあごの付けヒゲを引っぱりながら問うた。
「花房職秀とは、どんな武将じゃ?」
「一言で申せば、豪傑でございます」
「豪傑ゆえに、無礼な面も多いであろうな?」
「はあ、確かに……」
「ヤツが何をしたか、玄正から聞いたか?」
 ブチッ!
 切れたのは付けヒゲである。
「はい。うかがいました。まったく、とんでもないことです」
「ならば話は早い。職秀を縛り首にせよっ!」
 秀吉は付けひげを秀家に投げつけた。
「しばりくびっっ!」
「分かったら今すぐ行って、ここに職秀の首を持参せい!」
「ぎょぎょっ御意っ!」

 秀家が去っていくと、諸将がざわめいた。
 秀吉がわめいた。
「なんじゃ!誰かわしの沙汰
(さた)に文句でもあるのかあー!?」
 秀吉がそばで茶をたてていた天下一の宗匠・千利休に聞いた。
利休。職秀の縛り首は不満か?何か意見があれば申すがよい」
「……」
 手元が震え、茶があわ立った。
「おまえは昔、よくわしに意見をした。この頃、何も申さなくなったのう。意見がないのではなく、口にしなくなっただけではないのか?」
 利休が口を開いた。
「『綸言
(りんげん)汗のごとし』といいますれば」
「わしは君主ではない!臣下じゃ!」
 秀吉は不満であった。
 この翌年、利休秀吉によって切腹させられるのである。
 秀吉利休のそばにいた弟子にも聞いた。
「おまえはわしの沙汰をどう思う?」
 弟子とは、織部焼及び茶道織部流の祖・古田織部
(ふるたおりべ。重然)であった。
 織部は縮こまって答えた。
「あると思います」
 秀吉はこれも不満そうであった。
「どいつもこいつも本心を隠しよって!玄正!秀家を呼び戻せっ!」
「はいはい、ただ今!」

 玄正は秀家を連れ戻してきた。
 秀家はおそるおそる聞いた。
「今度はなんでしょうか?」
 秀吉は前言を撤回した。
「考えてみれば、あれほどの豪傑を縛り首にできるはずがない。切腹にせよ!行けっ!」
「は、ははあー」

 秀家は再び去っていった。
 今度もまた諸将がざわめいた。
 秀吉はカチンときた。
「おまえら、まだわしの沙汰に不満のようじゃの?申したいことがあれば、誰か何かはっきり申せというにーっ!」
 諸将はびくついた。
 怒られた児童たちのようにいっせいに下を向いた。
 それもまた秀吉には気に食わなかった。
「それともわしが命令を翻したことをバカにしているのかー!?」
 秀吉利休に八つ当たりした。
「そうであろう!おまえは先ほど『綸言汗のごとし』と申したなっ。つまり、『綸言』を引っ込めたこのわしを、心中であざ笑っているのであろうっ!?」
「め、めっそうもございません!」
 縮こまる利休を、黒田孝高
(くろだよしたか。如水)が助けた。
「『君子の過ちは日月
(じつげつ)食のごとし』ともいいますれば」
「フンッ!ごまかし方だけはうまいヤツらめ!おまえたちには自分の意見というものがないのかーっ!?」
 秀吉は玄正に命じた。
「もう一度、秀家を呼べえ!」
「はいはいはい!ただ今今っ!」
 玄正、クズグズしていると自分の首が飛ぶかもしれないので、転がるように駆けていった。

 しばらくして、秀家が息を切らしてやって来た。
「ハアハア、またまた秀家参上っっ」
 秀吉は付け直した付けヒゲをまた引っぱりながら、またも命令をひっくり返した。
「よーく考えてみれば、今の時代、このわしに対してあれほど堂々と意見する者がほかにいるであろうか?花房職秀という男、まことにあっぱれな豪傑である!命を助けるのはもちろん、以後は加増して厚遇せよっ!」
「なんじゃそりゃ」
「なんじゃ秀家?何か申したか?反論があれば、大きな声で申せっ!」
「いえっいえっ。殿下の御命令に反論など、あろうはずがございませんっ」
「うぬぬ、こやつまで……」
 また不機嫌になりかけた秀吉を、徳川家康がパンパン手をたたいて褒めたたえた。
「さすがは殿下!諸将の心理を見透かした見事な御沙汰!こういう処分に行き着くことは、初めから決めておられたのでしょう?この家康、実に感服いたしました!いやー、お見事!お見事!」
 諸将の顔から恐怖の色が消えた。
「なるほど、そういうことだったのか……」
「わしらをお試しになったということか?」
「さすがは殿下!」
「やはり関白様はわしら凡人とは考えることが違う!」
 そして、みなみな笑顔になった。
 ただし、前田利家だけは疑っていた。
「殿下、ブレてるでしょ?」
「ブレてねーよ!」
 秀吉はもう怒ってはいなかった。

[2009年1月末日執筆]
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