3.国後の蜂起

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北方領土はアフリカ人のものである
1.江差の密談
2.酋長の変死 
3.国後の蜂起 
4.蝦夷の始末

 寛政元年(1789)五月、ついにマメキリ・ホニシアイヌ・セワハヤフらは蜂起、泊にある飛騨屋の運上屋を襲撃した。
 竹田や左兵衛たちはあせった。
「どうしたんだ、君たち……。何を手に持っているんだ?」
「凶器に決まっているじゃねーか、コノヤロー!」
「ま、待て! 暴力はよくないよ、暴力はっ!」
「うるせー! いまさら何を言いやがる! 矢でも食らえー!」
 ピュン!
 ピュン!
 アイヌの矢は毒が塗られているため、かすり傷でもたちまち重症になる。
 プス!
 プス!
「ぎゃー!」
「わしら何にも悪いことしてないのにぃ〜!」
「ほざけー!!」
 反乱軍は竹田や左兵衛など通訳・番人ら二十二名を槍
(やり)などでめった突きにして殺害、店も蔵もぶっ壊すと、米や酒などを残らず略奪した。
「ケッ! もともとおれたちのものじゃねーか!」
「そうだ。シャモがおらたちからパクッたものだ!」
「こんなことは悪いことでも何でもねえー!」

クナシリ・メナシの蜂起関連地
クナシリ・メナシの蜂起 関連地

 マメキリたちは古釜布(フルカマップ。国後島中部。ロシア名ユジノクリリスク)も襲撃して全島を制圧、根室海峡を渡り、目梨(メナシ。知床半島南岸。北海道羅臼町)の指導者・ホロメキ(ホロエメキ)を誘った。
「一緒にシャモを討とう!」
「がってんでさー!」
 ホロメキらも悪乗り、反乱軍は百三十名に膨張、飛騨屋の支店や船などを片っ端から襲撃した。
 ピュン!
 ピュン!
「ひえー! 何すんのー!」
「命だけはお助けうぉー!」
「やかましい! 積年の恨みだー! シャモは死ねー!」
「女房や娘のカタキ討ちだー!」
 バキン! ガシャーン!
「うわー!」
「ぎゃーん!」

 こうして飛騨屋の関係者は番人も乗組員もことごとくぶっ殺された。
 いや、飛騨屋厚岸支配人・伝七とその弟の吉兵衛は抵抗せずに倉庫を開放し、秘蔵の仏像も進んで差し出したため殺されずにすんだ。

 また、大通丸の乗組員・庄蔵は、死んだふりをしていたため殺されずにすんだ。一連の暴動で国後・目梨の和人の死者は七十一人に上ったという。

 六月一日、松前に急報がもたらされた。
 松前道広は驚かなかった。
蝦夷を虐げればこうなることは予測できたことだ。権力に歯向かう者には、ただ死、あるのみ」

 六月二日、道広は番頭・新井田正寿(にいだまさとし。孫三郎)、物頭・松井広次(まついひろつぐ。広継。茂兵衛)、目付・松前則忠(のりただ。平角)らに征討軍を託して指示した。
「投降しない蝦夷の始末は分かっているであろうな?」
「はい。命は助けてやるとだまして呼びつけて処刑するんですね」
「その通りだ。それが平安時代桓武天皇が大酋長アテルイをだまして呼びつけて処刑して以来、一千年来の和人蝦夷に対する不変のやり方だ」

 そうであった。
 松前氏はアイヌが反乱を起こすたびに同じ手を使って鎮圧してきた。
 松前光広
(みつひろ)は永正十二年(1515)にシャコウジとウソの講和をしてこれを殺しているし、松前義広(よしひろ)は享禄二年(1529)にタナイヌを、天文五年(1536)にタイコナをだまし討ちに、松前泰広(やすひろ)は寛文九年(1669)にシャクシャインを謀殺していた。

 七月八日、征討軍二百六十余名はノッカマップ(根室半島北岸。根室市)に着陣、国後の大酋長ツキノエ、ノッカマップの大酋長ションコ、厚岸の大酋長イトコイらは恭順し、これに参陣した。
 新井田はツキノエに命じた。
国後・目梨の暴徒に伝えよ。ただちに武器を捨てて投降すべし。さすれば命だけは助ける」
 これ以前、アイヌに命を助けられた伝七は、イトコイを通してツキノエを説得していた。
松前藩は大砲や鉄砲を持ってきます。戦えば間違いなくアイヌは皆殺しにされましょう。松前藩も鬼ではありません。早期に謝罪すれば命だけは助けてもらえるかと」
 ツキノエもそう思っていた。
 だから新井田に聞いた。
「本当にマメキリ以下の命はお助けくださいますか?」
「武器を捨てて投降すればの話だ。ただし、マメキリ・ホニシアイヌ・セワハヤフ・ホロメキら首謀者の永牢
(えいろう。終身刑)は免れぬぞ」
「首謀者の命も助けてくださると。他の者は無罪放免にしてくださると」
「無罪かどうかはよく調べた上でのこと。今回の騒動の元凶は飛騨屋である。蝦夷はむしろ被害者ではないか。今回の暴徒の処分はおぬしらに一任する。おぬしらが暴徒を裁くがよい」
「分かりました。必ずやマメキリらを説得して見せましょう」
「頼むぞ」

 ツキノエ・ションコ・イトコイらは目梨へ向かった。
 マメキリらは征討軍来襲に備えてチャシ
(陣地)を築いていた。
 ツキノエの姿を見て、セワハヤフは喜んだ。
「オヤジ! とうとうおらたちの戦いに参加することにしたんだな!」
 ツキノエは首を横に振った。
「無駄じゃ。そんなものでは鉄砲は防げぬ。シャモは今投降すれば命は助けると言っている。シャモの気が変わらないうちに、みんな投降したほうがいい」
 が、マメキリもホニシアイヌも信じなかった。
シャモはウソつきだ」
「今までずっとそうやっておれたちをだまし続けてきたんだ。信じられるものかっ」
「いいや、今回は違う! シャモは今回の騒動は飛騨屋に非があるといっているのじゃ! お前たちの処分をわしらに一任すると言っているのじゃ! アイヌに死刑という刑罰はない。無駄な反抗はやめて投降するのじゃ!」
「……」
「頼む。カムイに誓ってウソは言わぬ」
 ツキノエは頭を下げた。
 ションコもイトコイも頭を下げた。
「わしらを信じてくれ」
「決して悪いようにはせぬ」
 マメキリらは心を動かされた。そして、ホロメキを見た。
 ホロメキはうなずいた。マメキリはツキノエに言った。
「わかった。おれはシャモは信じないが、アイヌは信じる。あなたたちを信じることにする」

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