ホーム>バックナンバー2019>令和元年８月号(通算214号)放火味　京都アニメーション放火事件と日本本土空襲

　桓武天皇陵(京都市伏見区)の前に猫がいた。
　私が来るのを知っていたかのように待ち構えていた。
「そうか、そんなになでてほしいのか」
「にゃ〜ん」
　ごろりん、さわさわさわわ！
　至福のひと時であった。
　二十年も前の話である。
　もうあの猫はいないと思うが、「後継者」がいるかもしれない。

　二十年前、私は十年ぶりに京都に降り立った。
　かつて自転車で走り回っていた懐かしい桃山丘陵を、味わうように徒歩で踏みしめていた。
　坂を登っていく途中、クリーム色の四角い建物が目に入った。
　若者が出入りしていたので、
（大学の寮かな？）
　と、思って通り過ぎた。
　あの建物が先月(令和元年七月)に燃やされた京都アニメーション第一スタジオだったかどうかは定かではない。
　どちらにせよ、痛ましい事件が起こったのは事実である。
　それでも、私は思うのである。
　本当にやりたいことは、死んだぐらいでやめられるものではない。
　犠牲になった彼らは、おそらく今でも描き続けているであろう。
　生き残った方々もである。
　いずれ復活する彼らは、何らかの形で「重い想い出」を残そうとするであろう。

　それにしても、放火犯・青葉真司(あおばしんじ)容疑者は鬼畜である。
「小説を盗まれたからやった」
　仮にそれが本当だとしても、ガソリンをまいて放火するような暴挙に及ぶ理由にはなり得ない。
「ガソリンをまいて放火」
　と、いえば、焼夷弾の構造である。
　太平洋戦争で米軍が我々の先祖にしでかした、残酷非道な焦土作戦で使われたおぞましい凶器の仕組みと同じである。
　この戦争での日本人死者は三百万人超とされているが、本土空襲による犠牲者だけで数十万人に及ぶという(統計によっては百万人超え)。
「パールハーバー(真珠湾)でだまし討ちされたからやった(「攻撃味」参照)」
　仮にそれが本当だとしても、ガソリンをまいて放火するような暴挙に及ぶ理由にはなり得ない。
　京アニ放火事件の犠牲者は三十六人(令和元年十月現在)なので、単純に数だけで比べれば、米軍のほうが二万倍も鬼畜であろう。

[2019年7月末日執筆]
[2019年10月加筆]
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「日本本土空襲」登場人物