3.呼 出 | ||||||||||||||
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夕方、三次を伴った町野氏吉の行列は、矢吹(やぶき。福島県矢吹町)本陣に到着した。
その晩、他の夫役と旅籠で談笑していた三次に、本陣から呼び出しがあった。
「おい。三次とやら。御家老さまがお呼びだ」
「え!おらが?」
三次は昼間の失態を思い出し、恐怖がよみがえり、増幅した。
(こっ、こっ、殺される〜!)
氏吉は部屋で待っていた。
なぜか短刀を抜いて、刀身を灯火に照らして眺めていた。
なぜかではなかった。
三次には予想がついた。
(おらをお手打ちになさるおつもりなんだ……)
三次は縮こまった。
「来たか」
氏吉が三次に気づいた。
「夫役の三次とは、その方か?」
「へ、へい」
三次は平伏した。
「もっと近う」
「へ、へい」
「もっとだ」
「へい」
三次は平伏したままにじり寄った。
氏吉がささやくように言った。
「夫役とは、『ブー役』ではないぞ」
三次は凍りついた。
重石を載せられたように、平伏したまま動けなくなった。
(や、や、や、やっぱり、御家老さまはあのことを……)
三次は観念した。
(もうおしまいだー!)
女房やみんなの顔が次から次へと思い浮かんできた。
(みんな、ごめん!)
様々な思い出が走馬灯のように現れては消えていった。
(みんな、さらば!)
三次は目を閉じた。
「おもてを上げい」
「へい」
すでに覚悟はできていた。
氏吉の顔をまっすぐに見返した。
三次 PROFILE | |
【生没年】 | ?-? |
【別 名】 | へっぴり三次 |
【出 身】 | 陸奥会津上高林(福島県天栄村) |
【本 拠】 | 上高林 |
【職 業】 | 農民 |
【家 族】 | 不詳 |
そこに笑顔があった。
なぜか氏吉の満面の笑顔があった。
満面の笑顔がほめたたえた。
「よくやった!」
「はあ?」
三次はわけが分からなかった。
氏吉は理由を語った。
「よくぞ向こうの夫役よりすごい屁をぶっ放してくれた!しかも、向こうは一発、おまえは二発!大きさでも、数でも、そしてクササでも、おまえの完勝であった!よくやった!それでこそ我が夫役ぞ!わしも鼻が高い!ほめてつかわす!」
氏吉はご褒美として短刀を三次に与えた。
さらに、御馳走や酒もたくさん出されてもてなされた。
この話が広まると、三次は人々から尊敬され、「へっぴり三次」と呼ばれるようになりましたとさ。
[2011年5月末日執筆]
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