4.地獄が来た女

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富士山などは噴火するのか?
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4.地獄が来た女

 天明の浅間山大噴火の被害は甚大であった。
 上野を中心に二千人〜三万五千人の死者を出したという。
 一瞬にして壊滅した鎌原村民は四百七十七人が死亡、生き残ったのはわずか九十三人だけであったという。
 鎌原村の村方三役のうち、百姓代は生き残ったが、名主組頭は死んでしまった。
 そのため、近隣の富裕層である大笹村の黒岩長左衛門、干俣村の干川小兵衛、大戸村の加部安左衛門らが救援にやって来た。
 彼らは自費で生き残った村人たちに食糧や宿を提供し、復興の手伝いをしたという
(後で幕府に諸経費を請求)

 また、黒岩は村人たちにこんなことを勧めた。
「君たちは復興のため、みんなで力を合わせなければならない。君たちはみんな同族なんだよ!固い絆
(きずな)で結ばれているんだよ!――というわけで、これから壊された家族の再編を行う」
「家族の再編?」
「そうだ。妻を亡くした夫は、夫を亡くした妻と再婚する。親を亡くした子は、子を亡くした親の養子になる」
 悪い女が質問した。
「独身の人はどうするんですか?」
 黒岩は答えた。
「独身の女は独身の男と結婚してもらう。その他あぶれた人はあぶれた人と結婚してもらう。そうやって家族を増やし、人口を増加させることが復興への早道なのだ」
「好きでもない人と結婚するの〜?あたいの好きな人は死んじゃったのに〜」
 黒岩は怒った。
「君は何を言っているんだ?君たちの村民は八割以上が亡くなっちゃったんだぞ。元の人口に戻すには、生めよ増やせよ以外にどんな手があるというんだ?それとも君は復興に協力したくないのかね?国賊女はとっとと村から出てってもらおう!」
「いえいえ。そんなんじゃありませんけど〜」

 異議もなくなったため「家族の再編」が話し合われた。
 悪い女にも「夫」が割り当てられることになった。
 が、悪い女の夫はなかなか決まらなかった。
「『死ね死ねブスブス女』がおかあさんなんてイヤダー!」
 悪い女は子供たちの評判が悪かったため、子持ち男から敬遠されたのである。

 結局、悪い女の「夫」は、残りものの男になった。
 残りものの男とは、例のブサイクナンバーワンであった。
 ブサイクナンバーワンは喜んた。
「ひゃっほー!」
 小躍りして鼻息荒らげて悪い女に接近してきた。
 悪い女はびっくりした。
「『結界』を越えるなあー!」
 ブサイクナンバーワンは聞かなかった。
「結界?夫婦にそんなもんあるわけねーだろ」
 道理であった。
 ブサイクナンバーワンは、ついに「結界」を越えた。
 初めてのブサイクナンバーワンの顔面アップ攻撃は想像を絶していた。
「おえ!」
 悪い女がもよおして顔をそむけたところに浅間山が見えた。
(お山の神様……)
 悪い女は恨めしそうに心の叫びを上げた。
(これはすべて、あんたの差し金だったのねーっ!!)
 浅間山はポッポと煙を吹き出し、腹を抱えて笑っているようであった。

[2012年3月末日執筆]
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