1.妖怪チャラ男

ホーム>バックナンバー2016>1.妖怪チャラ男

花盛りのゲス
1.妖怪チャラ男
2.鬼嫁のいぬ間に
3.鬼義母は見た!
4.鬼嫁の名のもとに

 ちらちら、ちらちら、ちらちら。
 雪が降ってきた。
 ちらちら、ちらちら、ちらちら。
 すその歩みが色っぽい女性であった。
「あ、雪だ」
 亀の前
(かめのまえ)は足を早めた。
 近所の神社に詣でた帰り道である。
 ちらちら、ちらちら、ちらちら。
「たくさん降るかな?」
「大丈夫でしょ」
 ばあやも合わせて早めた。
 たそがれ時である。ばあやは付け足した。
「でも、こんなときはアレが出るって言いますよ」
「アレって?」
「妖怪チャラ男」
「プッ!何それ?」
 ちゃらちゃら、ちゃらちゃら、ちゃらちゃら。
「ほらほら、なんか出てくるような雰囲気になってきた〜」
「やめてよー」
 ちゃらちゃら、ちゃらちゃら、ちゃららら〜ん。
 亀の前は足を早めた。
 でも、早められなくなった。
 進行方向に背の高いイケメンが立っていたからである。
「気をつけろよ、彼女さん」
 ちゃらら〜ん!ちゃらおがとう〜〜〜じょう〜〜〜!
 亀の前は右へのいた。
 すると、イケメンも同じくのいた。
 亀の前は左へ跳びのいた。
 すると、またイケメンはその前にいた。
 亀の前は戸惑った。
「ちょっと!通れないんですけど〜」
 亀の前はムッとしたが、イケメンは笑って聞いた。
「こういうのを何て言うと思う?」
「通せんぼでしょ?」
「違うよ。運命っていうんだよ」
「!」
「おめでとう!私が君の王子様だ」
 なでなで。
 イケメンにおつむをなでられたため、亀の前はいやいやした。
「やめてください!初対面なのに〜」
「出会いはいつも初対面〜♪」
「わけわかんない。帰るっ!」
 亀の前は駆け出そうとしたが、
 ドン!
 彼の右腕と松の木に阻まれた。
「そうだね。早く私の胸の中に帰っておいで」
「何言ってんのよ!家に帰るのっ!」
「私の家だって!積極的だなー」
「違うって!ばあや、なんとか言ってあげて!」
 その頃、ばあやは彼の左手から押し付けられた菓子折りから紙袋を取り出して、
「おほほ!こんなにいっぱい!いけませんよ〜、こんなのもらえませんよ〜」
 と、ちゃっかり中の銭束を懐に収めていた。
 ぢゃらぢゃら、ぢゃらぢゃら、ぢゃらぢゃら。
「おばさん、ここは私の顔を立ててくれ」
「わかりました〜。あとはどうぞごゆっくり〜」
 タタタタッ!
 ばあやは逃走した。
「!」
 ぐい!ぐいっ!
 亀の前は松の幹に追い詰められた。
「私のど真ん中はソ・ナ・タ」
「い、いやっ」
「人はウソつく時に目をそらす。本当に嫌だというのなら、私の目をまっすぐに見て言いなさい。ほら、ほらっ」
 くい!くいっ!
「うう〜」

inserted by FC2 system