3.鬼義母は見た!

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花盛りのゲス
1.妖怪チャラ男
2.鬼嫁のいぬ間に
3.鬼義母は見た!
4.鬼嫁の名のもとに

 鬼嫁いぬ間の源頼朝の天下は長くはなかった。
 鬼嫁・北条政子の勘が鈍っていても、鬼義母の目まではごまかせなかった。
 鬼義母とは牧の方
(まきのかた)――。
 政子の父・北条時政の後妻である。
 その日も頼朝は由比ヶ浜へ出かけた。
政子。安産祈願に行ってくるね」
「ありがとー、私のために〜」
「お前も体を大切にするんだぞ」
「あなたも海で溺れたりしないでね」
「海では溺れないよー」
 頼朝はそう言うと、心の中だけで続けた。
(陸では溺れてるけど……。イヒッ!)
 牧の方は、チャラ婿の不適切の笑みを見逃さなかった。
(あやしい)
 不審に思った牧の方が頼朝を尾行したところ、亀の前との密会現場を目の当たりにしてしまったのである。
(あら、いやだ)

 寿永元年(1182)十月、政子が産みたてほやほやの万寿を連れて御所に帰ってきた。
「ただいまー」
 話そうか話さまいか迷っていた牧の方であったが、政子の顔を見ると自然に口からサラサラ出てしまった。
「ちょっと、聞いて聞いて!あんたのダンナったら、あんたの留守中にヒソヒソヒソ――」
 柔和だった政子の顔がみるみる硬直してきた。
 殺気を感じた万寿が、
「ほげあ、ほげあ」
 と、泣いた。
 牧の方が話し終えると、政子は低い声で聞いた。
「で、その亀の前って、どんな女?」
「かわいらしくって、おとなしそうで、そうそう、何もかもあんたと正反対みたいな人」
 ズバキューン!
 政子の怒りは一気に頂点に達した。
「絶対許さない!ぶっつぶしてやるっ!!」
 政子たまたま近くにいた牧宗親
(まきむねちか)に声をかけた。
「おい、そこのオッサン」
 宗親は、牧の方の父とも兄とも伝えられている武士である。
「え、わしっすか?」
「そうだよ!てめーだよ!今からてめーが亀の前の家に襲撃に行ってきなっ!」
「え!なんで?なんでそんなことするの?」
「つべこべ聞くんじゃねえよ!不倫女を成敗するのは当然でしょ!あの女を成敗しないんなら、あんたを成敗するわよっ!いいのっ?」
 議論の余地はなかった。
 継子
(または義妹)の性格を知り尽くしていた宗親は、やるしかなかった。
「やります、やります。行ってきます〜」

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