3.鬼義母は見た! | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2016>3.鬼義母は見た!
|
鬼嫁いぬ間の源頼朝の天下は長くはなかった。
鬼嫁・北条政子の勘が鈍っていても、鬼義母の目まではごまかせなかった。
鬼義母とは牧の方(まきのかた)――。
政子の父・北条時政の後妻である。
その日も頼朝は由比ヶ浜へ出かけた。
「政子。安産祈願に行ってくるね」
「ありがとー、私のために〜」
「お前も体を大切にするんだぞ」
「あなたも海で溺れたりしないでね」
「海では溺れないよー」
頼朝はそう言うと、心の中だけで続けた。
(陸では溺れてるけど……。イヒッ!)
牧の方は、チャラ婿の不適切の笑みを見逃さなかった。
(あやしい)
不審に思った牧の方が頼朝を尾行したところ、亀の前との密会現場を目の当たりにしてしまったのである。
(あら、いやだ)
寿永元年(1182)十月、政子が産みたてほやほやの万寿を連れて御所に帰ってきた。
「ただいまー」
話そうか話さまいか迷っていた牧の方であったが、政子の顔を見ると自然に口からサラサラ出てしまった。
「ちょっと、聞いて聞いて!あんたのダンナったら、あんたの留守中にヒソヒソヒソ――」
柔和だった政子の顔がみるみる硬直してきた。
殺気を感じた万寿が、
「ほげあ、ほげあ」
と、泣いた。
牧の方が話し終えると、政子は低い声で聞いた。
「で、その亀の前って、どんな女?」
「かわいらしくって、おとなしそうで、そうそう、何もかもあんたと正反対みたいな人」
ズバキューン!
政子の怒りは一気に頂点に達した。
「絶対許さない!ぶっつぶしてやるっ!!」
政子たまたま近くにいた牧宗親(まきむねちか)に声をかけた。
「おい、そこのオッサン」
宗親は、牧の方の父とも兄とも伝えられている武士である。
「え、わしっすか?」
「そうだよ!てめーだよ!今からてめーが亀の前の家に襲撃に行ってきなっ!」
「え!なんで?なんでそんなことするの?」
「つべこべ聞くんじゃねえよ!不倫女を成敗するのは当然でしょ!あの女を成敗しないんなら、あんたを成敗するわよっ!いいのっ?」
議論の余地はなかった。
継子(または義妹)の性格を知り尽くしていた宗親は、やるしかなかった。
「やります、やります。行ってきます〜」