★ 富士山と八ヶ岳の背比べ | ||||||||||||||
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現在の富士山(静岡県・山梨県)周辺 |
女はお高くとまっていた。
「ふん」
女とは、「山岳味」に登場した超絶秒殺最高峰美女、木花開耶姫(このはなのさくやびめ)である(「神々系図」参照)。
「私より背が高い人はいないわ」
それが女の自慢であった。
「みんな、低くてかわいいわね〜。きゃはははひひひ!」
周囲を見回して高笑いする女に、異議を唱えた男がいた。
「残念でした〜。ボクの方が高いよっ」
男とは、八ヶ岳(やつがたけ。山梨県・長野県)の男神であった。
「確かに君は背が高いよ。でも、ボクの高さにはかなわない。君は二番だ」
「そんなことないわ!一番は私よ!」
「いいや、ボクだ」
「私ですぅ〜!」
女は通行人を捕まえて聞いた。
「ちょっと、そこのオッサン!私って、コイツより断然背が高いよねー?」
通行人は阿弥陀如来(あみだにょらい)であった。
彼は二人を見比べて首をかしげた。
「パッと見では何とも」
すると、女は勝手に解釈した。
「え?やっぱり私の方が高いって?」
男は怒った。
「そんなこと言ってねーだろ!」
「私に決まっているでしょ!」
「決まってないね。ボクなんだから」
「何よ!」
「やるかー!」
また言い争いを始めた女と男に、通行人が仲裁した。
「ケンカはやめなさい。どっちの背が高いか一瞬で判別できるいい方法があるから」
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現在の八ヶ岳(長野県)周辺 |
通行人は、ちょうどいい長さの樋(とい)を拾ってくると、一方の端を女の頭に、もう一方の端を男の頭に載せた。
「これでよし、と。しばらくこのまま動かないように」
「何なの?」
「訳分かんね〜」
通行人が二人に説明した。
「今から私がこの樋の真ん中から水を注ぐ。すると、水は高いところから低いところに流れる。つまり、流れてきた水を浴びて頭がびしょびしょになったほうが背が低いってわけだ」
二人は納得した。
「なるほど」
「頭いーい」
通行人は沢から桶(おけ)で水を汲んできた。
で、桶を樋の真ん中の上に掲げたのである。
「さあ、注ぐよ」
「いいよ。勝つのは私に決まっているけど」
「ボクだってば!」
通行人は桶を傾けた。
たぴたぴたぴ〜。
水が流れ始めた。
さらさらさらさら〜。
水は迷うことなく女の頭に向かって流れた。
「え!こっちにくる〜」
女が動揺する間もなかった。
ざっぱーん!
女は頭だけではなく、全身びしょぬれ水も滴るいい女になった。
「あ〜あ、びちょびちょ〜」
女はがっかりしたが、男は飛び跳ねて喜んだ。
「へっ!どんなもんだい!勝ったのはボクだ!言っただろ!ボクの背の方が高いんだって!」
「えーん」
女はすそをまくって水をしぼった。
白い脚がまぶしかった。
「お!」
男は反応した。
自然と顏が吸い寄せられた。
女はスキを逃さなかった。
「秘技!美脚乱舞!」
ドカ!バキ!ボカスカ!べきき!ぐりぐり!バコーン!
男の顔にキック連発炸裂(さくれつ)させてやったのである。
「う、ぶっ、ふう……、う〜ん」
ずずーん。
男は崩れ落ちた。
おかげでイケてる顔面は崩壊し、見るも無残な低身長になってしまった。
通行人が女の手を掲げて判定を下した。
「勝者、女!」
「やったー!勝ったわー!一番は私よー!」
「ひっ、卑怯〜」
男には妹がいた。
妹は、蓼科山(たてしなやま。長野県)の女神であった。
妹は変わり果てた兄の姿を見て泣いた。
「ひどすぎ〜」
あまりに泣きすぎたため、涙がたまってできたのが諏訪湖(すわこ。長野県)だという。
[2013年6月末日執筆]
参考文献はコチラ
※ 実際、大昔は富士山より八ヶ岳の方が高かったといわれています。
※ 八ヶ岳の神は男神ではなく、女神(磐長姫?)だったともいわれています。
※ 八ヶ岳は蹴られたのではなく、樋や棒でたたかれたともいわれています。
※ 富士山と背比べをしたのは八ヶ岳ではなく、白山(はくさん。岐阜・石川県境)だったともいわれています。