3.あしたの空 | ||||||||||||||
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「得宗館が燃えている!」
極楽寺の切通しで戦っていた長崎思元(しげん。頼元。または高光)・為基(ためもと)父子は、
「助太刀いたす!」
手勢七千騎から精鋭六百騎をすぐって小町口に向かった。
これを見た新田軍が包囲して殲滅(せんめつ)しようとしたが、追い払われて若宮小路へ退いた。
思元は捜した。
「得宗はどこで戦っておられるのか?」
見渡すと、天狗堂(てんぐどう)と扇谷(おうぎがやつ)から馬煙が上がっていた。
「どちらか分からぬが、二か所で戦闘が行われている。二手に分かれて助けに行こう!」
思元が命じると、
「はっ」
承った為基は泣いていた。
「なぜ泣く?」
「この戦いに勝ち目はありません。今日で父上とはもうお別れです。あしたの空は拝めないんです。だから泣いているのです」
「バカかお前はっ!」
思元はしかりつけて諭した。
「何の名残惜しいことがあろうか? どちらかが死んでどちらかが生き残れば、再会するまで長い別れになろう。が、わしもお前も今日中には討ち死にするのじゃ。明日にはすぐに冥途で再会できるではないか。あしたの空は冥途にあるのじゃ」
「ならば早くまいりましょう! 早く逝けば早く再会できます!」
「望むところじゃ!」