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長崎思元・為基父子は覚悟を決めると、二手に分かれて新田軍へ突撃していった。
味方六百騎に対して目の前の敵兵だけでも三千騎はいた。
為基は愛刀を抜いて拝んだ。
「頼むぞ、『面影(おもかげ)』!」
刀身に顔がはっきり映ることから命名したものであった。
山城の刀工・来国行(らいくにゆき)が百日精進し、鉄百貫を三尺三寸に鍛え上げた硬い太刀であった。
超ヒゲ面の敵兵が、
「死ねば?お前なんかもう生きてる価値ねーだろ!」
と、刀を振りかざしてきた。
チャーン!
為基は刀を払い飛ばすと、
ガチャーン!
兜(かぶと)の鉢(はち)に「面影」を振り下ろした。
「うーん」
脳天に衝撃を受けながらも、超ヒゲ面の敵兵は笑い飛ばした。
「バカめ!そのための兜だ!鉢をたたいたところで割れるわけねーだろ!刀が折れたぐらいなもんだ!」
為基はブンと「面影」をかざして見せた。
「折れてなーい」
「何だと!」
驚く超ヒゲ面の敵兵の頭で、
パカ!
と、妙な音がした。
超ヒゲ面の敵兵が頭を触ると、
ボテ!
ズチャ!
割れた鉢が両脇に落ちてしまった。
「割れてる〜」
それだけではなかった。
ニクジルブシャー!
頭頂で赤い噴水まで発生していた。
超ヒゲ面の敵兵は、現実を思い知らされた。
「うえ!頭まで割れてる〜!」
「スキあり!」
すかさず、そこそこの騎兵が為基にかかってきた。
が、スキがあったのは、そこそこの騎兵のほうであった。
バチーン!
面影でしたたかに「抜き胴」を打たれたのである。
「おう!」
これも鎧の上からであったが、
ぱきーん!
胸板が割れてはじけ飛んでしまった。
「ありえん!何という硬い刀だ……」
どう!
そこそこの騎兵は落馬して成仏した。
敵軍は学習した。
「ヤツは強い。接近戦ではかなわない。遠矢で討ち取れ!」
サッと退いて矢衾(やぶすま)を作ると、
ヒュン!
ヒュン!
ヒュン!
弓で矢を射かけてきた。
プシ!
ブシ!
「ヒヒーン!」
そのうち何本かが為基の乗っていた馬に当たった。
数えてみると、七本も刺さっていた。
「お前はもういい。十分戦った。どことでも行くがいい」
為基は馬をなでると、由比ヶ浜の大鳥居前で下馬して馬を放した。
為基は思案した。
「敵は面影を恐れて近づいて来ない。かといってこちらから打って出ても、馬がなければ名のある武士は相手してくれない。さてさて、どうしたものか」