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長崎為基は、何を思ったか「面影」の切っ先を砂地に突き立てた。
ずん!
そして、その横から少し離れ、敵に目立つように仁王立ってみた。
新田軍の兵たちは騒いだ。
「あ! アイツ、刀を横に置きやがった!」
「手ぶらで俺たちを挑発してるぞ!」
「ふん、なめたマネしやがって!」
「刀がなければこっちのもんだ!」
「どーれ、拙者が近づいて討ち取ってくれよう!」
「だまされるな! 近寄ったらすぐに刀を取って応戦するつもりだろう」
新田軍は引っかからなかった。
依然として遠くから矢を射かけてくるだけであった。
バシ!バシ!
為基は時折飛んでくる矢を払い落としていたが、
「ウッ!」
矢に当たったふりをして前のめりに倒れた。
ばた!
敵は喜んだ。
「やった! 倒れた!」
「俺の矢が当たったのだ!」
「違う! わしのだ!」
「何を言う! 実際に首を取った者の手柄だ!」
「俺が取るぜ!」
「早い者勝ちだー!」
兵たちは先を争って為基の周りを取り巻いた。
「動かないぞ」
「もう死んだのか?」
「虫の息だろうがどの道死ぬのだ」
「首、もーらいっ!」
笑顔の気持ち悪い兵が馬乗りになって首を取ろうとしたとたん、
ぱあ!
と、砂が舞い上がった。
キラッ!
面影が光ったかと思うと、笑顔の気持ち悪い首と一緒に仲良くクルクル回って落ちた。
ぼてころ!
ずん!
為基があくびして起き上がって聞いた。
「誰だ? 俺様の昼寝の邪魔をするのは? 思わず斬っちまったじゃねーか」
「のわわ!」
兵たちはびっくりして後ずさりした。
「全然死んでねーじゃねーか!」
「ピンピン生きてるじゃねーか!」
「寝ててもこの強さかよっ!」
「あぶねー! 俺までやられるとこだったぜ!」
為基はブリブリ怒り出した。
「人の安眠の邪魔をしたヤツラが、何をブツブツ言ってやがるんだ! まずは謝罪が第一だろ!」
一同突っ立っていると、為基は鍔元(つばもと)まで血に染まった刀を振り上げて襲いかかってきた。
「もう怒った! てめーら全員叩き斬ってやるからそこへ直れっ!」
返り血を浴びたその形相は、まるで赤鬼のようであった。
兵たちはびっくりして逃げ出した。
「怖ええ!」
「これゃかなわん!」
「逃げろー!」
「まだ追ってくる〜!」
「振り返るなっ! わっ! また顔見ちゃった! いかん! 夢に出ちゃうーーー!」
兵たちは必死で逃走した。
「ハアハア! みんな冷静になろうよ。敵は一人だよ」
「だったらお前が行けっ!お前が行って首まで取り終えろよっ!」
「いやだー! 怖いよー!」
兵たちが逃げ回っているうちに、為基はどこへともなく姿をくらませてしまった。
(「迎撃味」へつづく)
[2017年7月末日執筆]
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参考文献はコチラ
※ 長崎思元は東勝寺へ向かい、北条高時らと最期を共にしました。
※ 長崎為基はまんまと逃げうせ、出家して円海と名乗り、加賀で称名寺(石川県小松市。後の真宗寺)を建立したそうです。