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ホーム>バックナンバー2021>令和三年5月号(通算235号)貨幣味 三十帖冊子事件4.土
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延喜十六年(916)六月(または延喜十七年か二十一年)、僕は死んで土になった。
尊意は僕の願いをかなえようとはしなかった。
藤原仲平が冊子を持っていることを観賢や宇多法皇にバラしてしまったのである。
「東寺に返してあげなさい」
宇多法皇から促されては、仲平は東寺に冊子を返却するしかなくなった。
それでも彼は、代金の一万貫は受け取らなかった。
「この銭を受け取ってしまったら極楽往生がかなわない。どうかこの銭で井手寺に五重塔を建ててほしい」
そうである。
僕の願いは仲平によってかなえられたのであった。
[2021年4月末日執筆]
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※ この物語は『大日本史料』や『本朝高僧伝』にある無空の伝記に『今昔物語集』の逸話を加味して脚色したものです。
※ 令和三年(2021)四月、井手寺跡の隣接地で平安時代に建てられたとみられる五重塔の跡が発見されました。
※ 井手寺の五重塔建立に無空が尽力した証拠はありません。橘嘉智子か橘氏公あたりが建てさせた可能性のほうが高いかも知れません。