ホーム>バックナンバー2019>平成三十一年四月号(通算210号)改元味 天平改元2.亀のみぞ知る
私の御主人様・藤原麻呂は、飛鳥時代後期最強の廷臣・藤原不比等の四男です。
御主人様は他の人には笑顔を振りまいていましたが、私と「ふたり」でいる時だけ、裏の顔を見せてくれました。
「天平、聞いてくれよ〜」
私を持ち上げて私の顔を見つめて、人には言えない秘密を私だけに教えてくれたのです。
「藤原四兄弟?フッ!笑っちまうぜ!兄さんたちは利口で速い兎(うさぎ)だけど、僕だけドジでノロマな亀だよ」
私は亀なので、無反応で聞いていました。
「四兄弟っていうけど、僕だけ母親が違うんだよ」
長兄・武智麻呂、次兄・房前、三兄・宇合の母は石川連子の娘ですが、御主人様の母親だけは違っていました。
「母が違うだけじゃない。僕は密通の子なんだ」
御主人様の母親は、藤原五百娘といいました。
不比等の異母妹で、天武天皇の夫人になりましたが、異母兄と密通して御主人様を生んだのでした。
「僕は生まれてきてはいけない子だったんだ」
御主人様は悲しい瞳をしましたが、すぐに微笑みました。
「だから僕は人生を楽しんでやる。酒も音楽も人一倍やってやる。もちろん、女もだ」