3.亀亀亀亀さわ〜る亀亀 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2019>平成三十一年四月号(通算210号)改元味 天平改元3.亀亀亀亀さわ〜る亀亀
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御主人様は彼女さんを何人も連れてきました。
中でもはっきり覚えているのは、大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)という肉食女子です(「女傑味」参照)。
坂上郎女は私を見つけると、意外な顔をしました。
「あれ? 亀、本当にいるのね」
「天平っていうんだ。おいでおいで」
私はのそっと二人に近づいていきました。
「死の悲しみは生き物が癒してくれるんだよ。現に僕もこの亀に癒されている」
坂上郎女は知太政官事(ちだじょうかんじ)・穂積親王(ほづみしんのう)と大恋愛していましたが、霊亀元年(725)死に別れていました。
「あなたも失恋か何かしたの?」
「ないことはないよ。でも、恋は何度でもやり直せるからいいさ。僕は打ち消すことができないもっと暗いものを内に秘めている」
「へー、見えない〜。あなたって、いつも明るいじゃない〜」
「この亀が僕の暗い部分を吸い取ってくれているからだよ。こいつに触って話をしていると、悲しいこともさびしいこともみんな忘れさせてくれるんだよ。君も触ってみなよ」
「ふーん、あたしをなぐさめてくれるのは、この亀だったのね」
「だよ」
「ププッ!『僕の亀、触りにきなよ』って誘うから、あたしはてっきりあの亀だと――」
「あの亀って?」
「これよ!」
にぎたま!
「ぎゃふーん!」
私は頭を引っ込めました。
後にこの女は、大伴宿奈麻呂(すくなまろ)にも嫁ぎ、大伴家持(おおとものやかもち)の妻になる大伴坂上大嬢(さかのうえのおおいらつつめ)らを生むことになります。