1.ああ、乗っちまった | ||||||||||||||
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うわさは聞いていた。
運賃が安い船便があるということを。
その船は、横浜〜神戸間を往復していた。
名をノルマントン(Normanton)号といった。
イギリス船籍、マダムソン・ベル汽船会社所有で、重量二百四十トン、積載量三千トンの貨物船であった。
「なぜ安いかといえば、税金を払わなくてもいいからさ」
当時は安政の五か国条約以来の不平等条約下のため、明治政府は外国船から関税を徴収できなかった(関税自主権の喪失)。
また、貨物船に乗客を乗せることは法律違反であったが、イギリスに頭が上がらない明治政府は、これも黙認していたのである。
何しろこの国、大日本帝国は「大英帝国極東支店」なのである。
イギリスに敗れた薩摩藩と、イギリスなどに降参した長州藩が、イギリス商人から買った武器で、古き日本・江戸幕府を倒して成立した、超イギリス系国家なのである。
その明治政府が「宗主国」に対して頭が上がるわけはなかった。
「開国か?攘夷か?」
言葉は明るいが、ようは「降伏か?玉砕か?」なのである。
「王政復古!」
言葉は明るいが、ようは「英国追従」なのである。
「明治維新!」
言葉は明るいが、ようは「半植民地化」なのである。
「文明開化!」
言葉は明るいが、ようは「文化侵略」なのである。
「廃刀令!」
言葉は明るいが、ようは「武装解除」なのである。
「御雇外国人!」
言葉は明るいが、ようは「内政干渉要員」なのである。
「富国強兵!」
言葉は明るいが、ようは「めざせ!かませ犬!」なのである。
「地租改正!」
言葉は明るいが、ようは「カネ出す体制を整えろ!」なのである。
「鉄道開通!」
言葉は明るいが、ようは「大英帝国にカネを運ぼう!」なのである。
「郵便制度!」
言葉は明るいが、ようは「もっと英国にカネを運ぼう!」なのである。
「四民平等!」
言葉は明るいが、ようは「日本人はみな同等のクズだ!」なのである。
「殖産興業!」
言葉は明るいが、ようは「英国民の奴隷となって働けー!」なのである。
そう。
日本人は寛容なのである。
英米の洗脳によって、どこかのハリウッド映画のように、サムライは滅亡したのである。
これが後に、
「政治や文化を他国に押し付けることはいいことだ!」
と、勝手に思い込むようになり、いわゆる大東亜共栄圏へと突き進んでいく基盤になるのである。
おっと。だいぶ脱線した。
これらは死んでから気づいたことであり、生前の私は先進国イギリスに憧(あこが)れを抱いていた。
「ハイカラなものも食わせてくれるぜ」
で、友人に進められるがままに、ノルマントン号に乗ってしまったのであった。