★ 黄土色の想い出

ホーム>バックナンバー2020>令和二年1月号(通算219号)賭け味 埴岡里 ★ 黄土色の想い出

IR汚職事件
★ 黄土色の想い出

 大国主神には相棒がいた(「神々系図」参照)
 少彦名命という、蛾
(が)のコスプレをしたちっちゃい男であった。
「おまえの兄さんたちはワルばっかだから
(「卯年味」参照)、私の子を弟分にしなさい」
 そういって神皇産霊尊
(かみむすびのみこと)が押し付けてきたのである。
(変なヤツだな)
 初めはそう思っていた大国主神も、なぜか馬が合うので、一緒にあちこち遊びに行くようになった。

 ある時、二人は遠出することにした。
播磨にいい埴
(はに。粘土)が採れる所があるそうだ」
 土器でも作ろうと思ったのであろう。
 たくさん埴を採った後、家に持って帰ろうとして問題が起こった。
「重すぎだわ。おまえが俺の分も運べよ」
 大国主神が少彦名命に頼んだのである。
「嫌だよ〜、自分の分は自分で運んでよ〜」
「頼む。おまえはチビだけど力は強いんだ。俺の分も運んでくれ」
「じゃあ、僕が埴を運ぶとして、君は何をするんだよ? 手ぶらで帰るつもりかい?」
「うん」
「話にならないよ!」
「わかった。そんなら俺は大便を我慢する。家に帰るまで決して大便は漏らさない」
「何だよそれ」
「これは我慢比べだ。俺は大便を我慢し続ける。おまえは重い埴を運び続ける。どちらか音を上げたほうが負けだ」
「プッ! そんなくだらねえ我慢比べなんてしたくもないよ」
「何か賭けるといっても?」
「何を賭けるんだよ?」
「女だよ」
「ほう」
「そうだ! この前、新しく飯炊きに雇ったネーチャンがいるだろう。あの女を賭けよう」
 これには少彦名命も乗り気になった。
「おう! あの美人か! 勝ったほうが告るってか?」
「その通り」
「おもしろい!やってやるぜ!僕は絶対に埴を落とさないぞ!」
「俺も絶対に大便を漏らさないからな」
「何を! 君なんかクソまみれだ!」
「おまえこそ、土をつけてやるぜ!」
 ふと、大国主神が疑問を持った。
「そういえば君、女と付き合ったことはあるのか?」
 少彦名命はもじもじして答えた。
「穴に入れるらしいですけど、細かいことはよくわかりません」
 そして、埴を背負って歩き始めた。
「この身に背負った重責を思うと、粛然
(しゅくぜん)たる気がします」
 まだ便意がない大国主神は、余裕で励ました。
「身の丈に合わせてがんばって」
「チビって言うなぁー! キサマこそ、ちびりやがれ!」

 こうして二人の我慢比べが始まった。
 一日、二日、三日が過ぎても、少彦名命は平然と埴を担ぎ続けた。
 こうなってくると、苦しいのは大国主神である。
 朝になるたびに強烈な便意に襲われるのである。
「おう! きたっ!」
「漏らすのか?」
「いいや、まだ平気だぜ〜」
「なんだ、つまらん」
「ひぃっ! うぐうっ!」
「今度こそ出るのか?」
「はうぅうっ! へっへっへー! 出そうになったが、両ケツをしっかりはさんで押さえつけたから大丈夫〜」
「しぶといな」
 しかし、そんな大国主神に大波が迫ってきた。
「おぅおぉぉ……」
 大国主神の歩みは止まって固まってしまった。
 少彦名命はワクワクした。
「どうした? この世の終わりがやって来たのか?」
 大波が去ったため、大国主神が恐る恐る尻をなでて確認してみると、少しちびっていた。
 それでも、すそでふいて隠し耐えた。
「まずまずで収まった……」

 四日、五日と過ぎてくると、二人とも我慢しすぎて意識が遠のいてきて、あられもないことを口走るようになってきた。
「てぃー! てぃてぃー!! てぃーてぃーてぃてぃー!!」
「大国主をぶっ壊す!」
「おっぱい! おっぱい! 俺は女の胸をもみたいんだー!!」
「事務所総出で!?」

 そして、ついに最期の時がやって来た。
「うっ!」
 大国主神が雷に打たれたみたいに硬直し、ガタガタ震えてうめき始めた。
「うっ、ううっ、うーん、う〜うん……」
「何だ?」
「うんうん、うんんん、ううっん……」
「何だ? どうした!?」
「うんこーーーーーーー!!!」
「!!!」
 ぶりっ! ぶりりっ! ぶりっこ!! ぶりぶりっこ!!!
 ぶりぶり! ぶりん!ぶりん! ぶりてり! ぶりしゃぶ!! ぶりだいこん!!!
 もわわ〜ん。ほよよ〜ん。とぐろ! とぐろっ!! とぐろっっ!!! うほほーい! つんつん!
 グラッ!
 大国主神はおびただしい大便の中に崩れ落ちた。
 バタリ!
 大国主神はしばらくドクドクと寝グソを続けた後、動かなくなった。
 少彦名命は歓喜した。
「やったー!勝ったぞー!」
 埴を放り捨てて小躍りした。
「大国主、敗れたり! ネーチャンは僕のもんだぁー!」

 こうして男たちの戦いは終わった。
 全力を出し尽くして熱戦を展開した大国主神に、悔いはなかった。
「後悔など、あろうはずがありません!」
 そして、ササの葉の上で脱糞したため、豪快に広範囲にはじけ飛び散ったウンコたちを見回して、始末に困った。
「環境問題は、楽しく、かっこよく、刺激的に解決すべきだ」

 それからというもの、大国主神の大便がはじけ散った所を「初鹿野(はじかの。兵庫県市川町)」、少彦名命が埴を放り捨てた所を「埴岡里(はにおかのさと。兵庫県神河町)」と呼ぶようになったという。

[2019年12月末日執筆]
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