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氷上川継 PROFILE
【生没年】 ?-?
【別 名】 氷上河継
【本 拠】 平城京(奈良県奈良市)→伊豆三島(静岡県三島市?)
→平安京(京都市)
【職 業】 官人
【役 職】 因幡守→(伊豆流刑)→典薬頭→伊豆守
【位 階】 無位→従五位下→無位→従五位下
【祖 父】 新田部親王(天武天皇皇子)
【 父 】 塩焼王(氷上塩焼)
【 母 】 不破内親王(聖武天皇皇女
【お ば】 称徳天皇・井上内親王ら
【兄 弟】 氷上志計志麻呂(または同一人物)
【 妻 】 藤原法壱(浜成の娘)
【部 下】 大和乙人ら

 宝亀元年(770)十月の光仁天皇即位は、奇跡の「政権交代」であった。
 弘文天皇元年(672)の壬申の乱以降、皇統は天武天皇に移り、天智天皇の子孫である男子が皇位に就くことはなかった。
 その奇跡が、希代の策士・藤原百川の「偽善」によって実現してしまったのである
(「ヤミ味」「藤原式家系図」参照)

 天応元年(781)四月、病に伏した光仁天皇は、皇子・山部親王に譲位した(桓武天皇光仁太上天皇)
 ここに皇統は完全に天武天皇の子孫から天智天皇の子孫へと移ったのである
(「天皇家系図」参照)

 当然、おもしろくない者たちがいた。
 前政権与党「天武系」の人々である。
「何が天智天皇の子孫だ!ヤツラは壬申の乱で敗れた時点で皇位継承権を失っているではないか!我々天武系は敗者復活戦を認めてはいない!」
 天武天皇のひ孫・氷上川継
(ひかみのかわつぐ)もその一人であった(「氷上氏系図」参照)
 彼の父は、塩焼王
(しおやきおう)――。
 何度も皇太子候補となり、藤原仲麻呂の乱では、「皇帝」にも擁立された天武系のエースであった。
「オレは許さんぞ!皇統はこれからも天武系が代々継承する!天智系なんかに入り込む余地はねえー!」
「そうよっ!」
 川継の母も怒り狂っていた。
「皇統は天武系だけよっ!天智系の、しかもよりによってクソッタレ百川が推していたショーベンタレ山部天皇だなんて、絶対に許しませんっっっ!」
 川継の母とは、不破内親王
(ふわないしんのう。)――。
 聖武天皇
(「暴発味」等参照)の皇女であり、光仁天皇廃后・井上内親王(いのうえないしんのう。「ヤミ味」参照)の妹であり、先々帝・称徳天皇(「女帝味」参照)の姉であった(「天皇家系図」参照)
 つまり桓武天皇は、不破内親王にとって「元おい」である。
藤原百川こそ、私の不倶戴天
(ふぐたいてん)のカタキ!百川は私の姉(井上内親王)を殺しやがった!私の盟友の紀益女(きのますめ。「奈良味」参照)も殺しやがった!私の妹(称徳天皇)の遺書も偽造しやがった(「ヤミ味」参照)!そして、私の息子から皇位を奪いやがったのよっ!」
 不破内親王の怒りは収まらなかった。
「でも、私は山部の本当の正体を知っている……。ヒッヒッヒ!」
 彼女は不適に笑った。
「実は、山部は皇統ではないわ。そもそも天智系でも何でもないのよっ!そう!ヤツは皇族ではなく、ただの庶民なのよっ!」
 川継は驚いた。
「え!山部は先帝
(光仁天皇)の子ではないのですか?」
「間違いなく先帝の子よ」
「あれれ?先帝は天智天皇の皇子である施基親王
(しきしんのう。志貴皇子)の王子ですよ。帝が先帝の子なら、れっきとした天智系の皇子ではないですか」
「その先帝が皇統ではなかったとしたら?」
「はあ?意味が解りませんが」
「先帝の正体が庶民で、名もなき河内出身の僧だったとしたら?」
河内出身の僧……。って、ま、まさか!?」
「そう!先帝の正体は、道鏡なのよっ!」
「何ですとぉー!!」
 川継は飛び上がるほど仰天した。
「ということは、山部は、あの怪僧・道鏡の子……!どっひゃー!!」
 川継は二度ビックリして混乱した。
「あれ?あれ?だって――、そのそのっ、道鏡の野望は、正義の男・和気清麻呂
(「和気氏系図」参照)によって阻止されたはずではありませんか?」
「確かに宇佐八幡神託事件では道鏡の野望は清麻呂によって阻止されたわ
(「女帝味」参照)。でも、考えてもみて。道鏡は失脚したわけではないのよ。失脚したのは清麻呂のほうなのよ。あの事件以後も道鏡法王として権力を握り続けていた男なのよ。その道鏡が、一度即位に失敗したぐらいであきらめると思う?」
「確かに。そういえば道鏡は施基親王の皇子で、先帝と兄弟ではないかといううわさがありましたが、兄弟ではなくて同一人物だったんですか……。うええ!何てことだ!ペテンじゃないですか!皇統をも偽って庶民が即位するなんて皇統を冒涜
(ぼうとく)する前代未聞の大悪事!しかもそいつは平然と自分の子に譲位しやがったのか!」
「すべては百川が策したことよ。こんなことができるのは、百川以外にありえないわっ」
「やっぱりあの希代の策士の仕業か!そうだ!そうに違いない!ヤツならやりかねん!何しろヤツは先々帝の遺書を偽造してまで先帝を皇位に就けたんだ!ヤツなら皇統を偽ることぐらい何のこともない!」
「その結果、正当な皇統であるあなたの皇位への道は絶たれた……。ううっ……。おいたわしや……」
「許せねえー!」
 川継の怒りは頂点に達し、髪に移って激しく燃え上がった。
「オレは皇位を奪還する!宇佐八幡神託事件の時、八幡大神は清麻呂にこうのたまったという!『わが国は天地開闢
(かいびゃく)以来、君臣の道定まり、いまだかつて臣をもって君と成したことがない!天津日嗣(あまつひつぎ)は必ず皇孫を立てよっ!道鏡、無道をもって皇位を望もうとしているが、はなはだ恐れ多いことである!早くこれを払い除けよ!なんじ、その恨みを恐れるな! われ、必ずなんじを助けるであろう!』と。その通りなのだ!邪臣道鏡の皇統は、すみやかに払い除くべし!そして、れっきとした天武系の嫡流であるこのオレが、真の天皇として即位するのだーっ!」

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