1.放浪!旅の山伏!! | ||||||||||||||
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日が暮れてきた。
辺りも暗くなってきた。
風が強くなり、ずいぶんと冷え込んできた。
「うう……。今夜は野宿は無理だ。どこかで泊めてもらおう」
脚も限界であった。
とうに両足のマメもつぶれていた。
腹もペコペコであった。
「ダメだ。もう歩けない。この近くで宿を探そう」
旅の山伏はそうすることにした。
しかしここは越後のド田舎である。
山また山の山奥である。
こんなところにそううってつけの民家があるとは思えなかった。
でも、あった。
大きな大きな豪邸が一つだけあった。
「やったー!」
山伏は喜んで大豪邸の門をたたいた。
「たのもー!たのもー!」
どんどん!どんどん!
大豪邸の亭主が気づいた。
「おい。誰か外で呼んでないか?」
下男は気づいていた。すでに小窓から確認していた。
亭主の妻が報告を受けて勧めた。
「汚い山伏だそうです。無視したほうがよろしいのでは?」
「そうか。そうするか」
しばらくして、亭主は小用に立った。
外ではまだ声がしていた。
「たのもー!たのもー!旅の山伏でござる!今晩一晩、泊めてくだされ!」
どんどんどん!
「まだいたのか」
じょろんじょろろん〜。
亭主は用を足しながら、小窓から外をのぞいて見た。
なるほど、汚い山伏であった。
が、背中にある長いさやが目に留まった。
(刀ではないか)
しかも、見るからにいい刀のようである。
(山伏がなぜにかようなものを?)
小用から戻った亭主は、下男を呼んだ。
「なんでしょうか?」
「あの山伏、山伏なのに刀を差しておるな」
「ええ。物騒な世の中ですから珍しくはないでしょう。あるいは、盗賊じゃないでしょうか?相手になさらないほうが」
「それが、したくなるんだよ〜。あの刀を見りゃ〜」
「そんなにいい刀ですか?」
「ああ。わしの見立てでは、小さな家なら一軒ぐらいは建つ」
「ほー、それはそれは」
「去る関ヶ原の戦の落ち武者かもしれないな。戦に敗れ、牢人(ろうにん。浪人)して山伏になり果てたとか」
「単に西軍(豊臣方)の名のある武将が持っていた名刀を奪っただけかもしれませんよ。やっぱり悪党ですよ」
「どちらでもよい。あの山伏を泊めてやれ」
「しかし、もし盗賊だったら?」
亭主は笑った。
「フハハ!ここは越後春日山(かすがやま。新潟県上越市)城主・堀秀治(ほりひではる)さまの常宿じゃ。警備の武士たちも常駐している。このようなところに単独で押しかける勇気のある盗賊などいようか?」
「おっしゃるとおりで」