4.没収!無銘の刀!! | ||||||||||||||
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亭主が出かけている間、山伏は落ち着かなかった。
数日後、山伏は下男に聞いてみた。
「亭主はまだ帰らぬか?」
「本日の夕方には戻る予定ですが」
「そうか。されば里まで出迎えてくる」
山伏は出かけた。
里の高札場に人だかりができていた。
「なんだ?何かお知らせか?」
山伏は気になって高札を見ようとしたが、人が多すぎて輪の中に入れない。
「まあいいや。拙者は他国者だから関係ない」
人々が話していた内容は分かった。
「国内に徳政令が出たんだってよ」
山伏は、その時は別に気にも留めなかった。
夕方、亭主が帰ってきた。
「おかえり!」
山伏が喜んで両手を差し出して請求した。
「さあ、拙者の刀を返してくだされ」
亭主が勧めた。
「今日はもう日が暮れます。出立は明日になされては?」
「いいや。世話になった。これで立つので刀を」
「そうですか。それではお達者で。――ただし、刀は渡せませんねー」
「何?」
「だって、私がいない間に徳政令が出たそうじゃないですか。徳政令って御存知でしょう?借金はチャラ!賃貸契約は無効!よってこの刀は今現在の持っている者のもの、つまり、合法的に私のものになったんです」
「何だとー!」
山伏は怒った。
「キサマー!その刀はキサマが絶対返すって約束したから貸したんだぞ!先祖伝来の家宝なんだぞっ!早く返しやがれっ!」
亭主は豹変(ひょうへん)した。
「キサマとは何だ!だいたい山伏に刀なんか必要ねーじゃねーか!キサマのほうこそ、お上が出した法律に立てつくってかっ!無礼者!誰がなんと言おうと刀は私のものになったんだ!もはやキサマなんかに用はねえ!とっとと失せやがれ!」
「何をぉー!」
山伏は亭主になぐりかかったが、亭主の手下どもにさえぎられ、逆にねじ伏せられてしまった。
「亭主さま、コイツ、どーしやす?」
「やっておしまい!」
「へい」
ボコボコ!ドカスカ!
「いてーて!やめろー!ぐわー!」
山伏は手下どもになぐられ蹴(け)られ踏まれてボロボロにくたばった。
「ガハハ!たわいもない」
亭主一味は高笑いして手をはたいて去っていった。
山伏は血へどを吐いて叫んだ。
「キサマら、このままですむと思うなよっ!こうなったら、出るとこ出てもらうぞーっ!」
亭主が振り返って笑っちまった。
「出るとこってどこよ?私の味方だらけの奉行所にか?人も法もみんな全部私の味方なんだぞ。キサマが訴訟を起こしたところで、万分の一も勝ち目がないわー!」
「うう……」
「それに私は忙しいのだ。明日からお殿さまのお供で江戸に行かなければならないのだ。お殿さまは将軍さまに謁見するんだぞっ。だからどの道、しばらく裁判は延期だな」
「ならば拙者も江戸に行くっ!江戸に行って、将軍さまじきじきにキサマの不法を訴えてやるっ!」
「不法ではない!私は合法的に刀を手に入れたのだ!だいたい将軍さまが一介の山伏のほざくことなんか聞いてくれるもんか!将軍さまはおヒマではないわー!」