5.助船!本多正信!!

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続・政治家vs官僚
1.放浪!旅の山伏!!
2.拝借!宿の亭主!!
3.加担!堀 秀治!!
4.没収!無銘の刀!!
5.助船!本多正信!!
6.判決!板倉勝重!!

 翌日、亭主は将軍徳川家康に謁見する堀秀治のお供の一人として江戸に向かった。
 一方、山伏は、盗られた刀を取り返すために江戸城に先回りして訴え出た。
「たのもー!たのもー!」
 どんどんどん!
 当然のことながら門前払いである。
「汚い山伏だな」
「ここはお前のようなヤツが来る場所ではない」
「シッ!シッ!」
 山伏はわめいた。
「お願いでござる!拙者は先祖伝来の刀を、堀秀治の常宿の亭主に盗られたのでござる!なんとか取り返してくだされっ!」

 この声を偶然、登城する途中で耳にした大名があった。
 徳川官界のボス・本多正信
(ほんだまさのぶ)である。
「堀秀治だと?」
 正信は興味を持った。
 彼は豊臣家の旧臣である秀治のことをよく思っていなかった。
 秀治は去る関ヶ原の戦では東軍
(徳川方)について本領安堵されていたが、実は西軍に内通していたといううわさがあった。
(その秀治の悪事であれば、どのような小さなことでもつついてみたいものだ)

 正信は門番に声をかけた。
「何をもめておる?」
「ああ!これはびっくり本多さま!」
「なーに、たいしたことではございませんよ〜」
 門番たちの言葉に、山伏が激怒した。
「たいしたことだ!拙者にとっては命よりも大切なことでござるっ!」
 正信はますます興味を持った。
「山伏よ。わしの邸へ参れ。そのこと、もっと詳しく聞かせてくれぬか?」
「ははあ!」

 山伏は本多邸で今までのいきさつを話した。
 聞くと、正信はうなずいた。うなって考えた。
「なるほど。お前の気持ちは分かるが、理不尽とは思うが、徳政令が出たからには、それに従うしかあるまい」
「そんな〜。何とか無効にできないものでしょうか?」
「難しいな。幕府はその程度のことで各藩の内政干渉はしない。――が、お前に裁判の場を設けてやることはできる。どうだ?やってみるか?」
「お願いいたします!このままでは帰れません!」
「わかった。ならば堀秀治と、その亭主とやらが江戸に着き次第裁判を行う。実は今、わしが昔家康公に推挙してあげた公明正大な堅物が京都から来ておる。裁判はその男にしてもらおう」
「となたでございましょうか?」
京都所司代板倉勝重」
「ああっ!かの高名な板倉さまが!」
「知っておるのか?」
「もちろん存じております!名奉行として誉れ高きお方ですから〜。ありがとうございます!これ以上の方はございません!あの方なら必ずや正しき者を勝たせてくれるでしょう!」
「喜ぶのは早い。板倉は堅物ゆえに法令遵守の男だ。よって、徳政令という法令を覆すとは思えぬ。つまり、お前の不利は否めないのだ」
「そうですか……」
「どちらにせよ、名奉行板倉がどのような判決を下すか見モノだ。当然、家康公ものぞきにこられるであろう」
将軍さまも!」
「そーよ。御前裁判よ。が、板倉は上司の前であろうが将軍の前であろうが我を通す男だ。どんなお偉方が圧力をかけたとしても、決して屈しない男だ。それゆえに誰しも裁判を優位に導くことはできぬ」
 山伏は不思議がった。
「本多さまは、なぜこのような非力な赤の他人のために、そこまで肩入れしてくださるので?」
 正信は笑った。
「勘違いするでないぞ。わしはお前の味方ではなく、堀秀治の敵なのだ。裁判の行方は分からぬが、お前が勝てば亭主だけではなく堀の威光も失墜する。が、お前が負けたとしても、わしの威光が失墜することはない。わしは嫌いなヤツのホコリを見ると、どうしてもたたき出したくなる性分なのだ」
「あまり感心できる御性分ではございませんね〜」
「何だと?」
「いえ、何もっ」

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