1.ランボー

ホーム>バックナンバー2020>令和二年10月号(通算228号)継承味 雄略天皇の王位継承1.ランボー

菅義偉内閣発足
1.ランボー
2.邪魔者は殺せ
3.悪魔が来りて笛を吹く

 大泊瀬幼武皇子は思い込んでいた。
 兄・安康天皇が王位を譲ってくれるものだと思い込んでいた。
「兄は俺に嫁
(草香幡梭皇女)を用意してくれた。次は王位を譲ってくれるはずだ」
 が、安康天皇は従兄弟で義兄の市辺押磐皇子に譲位するつもりらしかった。
 大泊瀬幼武皇子は兄に聞いてみた。
「太子は決めないんですか?」
 安康天皇ははぐらかした。
「市辺押磐皇子って、人格者だよな?」
「オレは?」
 安康天皇は笑った。
「お前は誰が見ても乱暴者だよ」
「ケッ!つまり、オレより市辺のほうが太子にふさわしいってことかよ!? おもしろくねー!」
 大泊瀬幼武皇子は暴れた。
 柱をなぐったり、高坏
(たかつき)を投げたりした。
 安康天皇はため息をついた。
「そういうところがふさわしくないのだ」
「あー、そうかい!」
 大泊瀬幼武皇子はブリブリ怒って帰ってしまった。

 安康天皇三年(456?)八月、安康天皇は継子・眉輪王(まよわのおう・まゆわおう。目弱王)に暗殺された。
 その経緯は「非行味」で紹介したが、あるいは大泊瀬幼武皇子が暗殺し、罪を眉輪王になすりつけたとも考えられる。
 いずれにせよ、その後の大泊瀬幼武皇子の行動は早かった。
 眉輪王だけではなく、自分の兄の八釣白彦皇子
(やつりのしろひこのみこ)と坂合黒彦皇子(さかいのくろひこのみこ)も殺してしまったのである。
「フハハ!これで皇位継承者はオレしかいなくなった!」
 大泊瀬幼武皇子は高笑いした後、肝心なヤツを思い出した。
「そうだ! まだ『人格者』とやらが残っていたんだった……」

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