2.邪魔者は殺せ | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2020>令和二年10月号(通算228号)継承味 雄略天皇の王位継承2.邪魔者は殺せ
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大泊瀬幼武皇子は市辺押磐皇子について調べさせた。
「狩猟が好きみたいですよ」
大泊瀬幼武皇子は喜んだ。
「そうか。趣味が同じなのはありがたい」
大泊瀬幼武皇子は市辺押磐皇子を暗殺するためにおびき出した。
「韓袋(からぶくろ)という近江に住む者が言っていました。久米綿(くめわた)の蚊屋野(かやの。滋賀県日野町or秦荘町)にはシカやイノシシがたくさんいるそうです。一緒に狩りにでも行きませんか?」
市辺押磐皇子は応じてきた。
喜んでというより、
(断ったら何されるかわからない)
と、恐れたのであろう。
どの道、断らなくても何かされてしまうのであるが……。
「いい日和で何よりです」
「明日もいい天気だといいですね。蚊屋野は遠いですから、狩りは明日です」
安康天皇三年(456?)十月、二人は連れだって蚊屋野へ向かった。
それぞれ数名の舎人は連れていたとみられる。
蚊屋野へ着くと、それぞれ仮宮を建てて一泊した。
翌朝、市辺押磐皇子が早起きして大泊瀬幼武皇子の仮宮に呼びに来た。
「もう夜が明けました。シカやイノシシたちがお待ちかねです。早く狩りに行きますよっ」
大泊瀬幼武皇子も着替え始めた。
「ちょっと待って下さい。今朝のオレは着替えに時間がかかるんですよ〜」
ガチャガチャガチャ。
大泊瀬幼武皇子は衣の下に甲(よろい)を装着した。
「お待たせ」
ようやく大泊瀬幼武皇子が仮宮から出てくると、市辺押磐皇子はすぐに馬の向きを翻して駆けていった。
「どっちが早く獲物をしとめられるか競争ですよっ」
パッパカパッパカ。
「よしきたっ!」
大泊瀬幼武皇子もすぐに馬に乗って追いかけた。
パッパカパッパカ、ガチャガチャチャ。
そして、
「シカ、見っけ!」
キリキリと弓を引き絞って矢を放った。
ボスッ!
矢は市辺押磐皇子の背中に命中した。
「いたっ!」
どたた!
市辺押磐皇子は落馬した。
「ごめ〜ん。シカと間違えちゃった〜」
大泊瀬幼武皇子が謝って駆け寄ってきた。
そして、市辺押磐皇子の背中に刺さった矢を、
しゅっぽーん!
と、思いっきり引っこ抜くと、
ぶおお!
勢いよく出血した。
市辺押磐皇子がゼエゼエいいながら聞いた。
「君……、わざとだね……?」
「え? 何言ってんの?」
「こうするため……、呼びつけたんだろ……?」
「何言ってんのかよくわかんないけど苦しいんだね? 今すぐ楽にしてあげるよ」
ギリギリギリリ、ぽーい!
大泊瀬幼武皇子は市辺押磐皇子の首を斬って投げつけた。
「ええっ!? なになに? 今、何を投げたの!?」
市辺押磐皇子の舎人・佐伯部売輪(さえきべのうるわ)が駆けつけてきて、惨状に仰天した。
「ぎゃああああー! ひでえ! ひどすぎる〜!」
佐伯部は主人の首と胴体の間を右往左往して泣き叫んだ。
「うるさい!」
ドカ! バキ! ボカン!
大泊瀬幼武皇子は佐伯部をたたき斬った。
そればかりか、次々と駆けつけてきた市辺押磐皇子の舎人たちを皆殺しにしてしまった。
これらの遺体は飼い葉桶に詰めて土の中に埋めておいた。